過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号・右直事故)の交通事故~

2024年2月19日

皆様、こんにちは

優誠法律事務所です。

今回のテーマは、十字路交差点の右直事故の過失割合です。

信号のある十字路交差点(双方青信号)での直進車と対向車線からの右折車の交通事故(いわゆる「右直事故」)の過失割合が問題になった事例をご紹介します。

以前、駐車場内の交通事故についてご紹介した記事で、

●過失割合とは?

●基本過失割合とは?

●弁護士にご依頼いただいた場合の過失割合の争い方

など、過失割合の基本的なことを解説していますので、是非こちらの記事(過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その1~)もご覧ください。

これまで全国の方から本ブログに掲載している事例と同じような事故で困っているとご相談いただいておりますが、今回ご紹介するOさんの事例も、右直事故と言われる比較的よく発生する交通事故の類型ですので、同じような事故の過失割合でお困りの方の参考になれば幸いです。

今回の依頼者~信号のある十字路交差点で直進車と対向右折車の車VS車の交通事故~

今回の依頼者Oさんは、埼玉県在住で

・交通事故は信号のある十字路交差点で発生

・Oさんは交差点を直進、相手方は対向車線から右折

・双方とも青信号で交差点に進入

・Oさんの車両の前部正面に相手方の左前部が接触

・相手方に過失割合20:80を主張されている

・交通事故による怪我は頚椎捻挫・腰椎捻挫

・治療期間は約6ヶ月間

・弁護士特約が使用可能

という内容でした。

【本件の争点】過失割合

事故現場の交差点の写真

上の写真が本件の交通事故の現場となった交差点です(事故当日の写真ではありません。)。

Oさんは、この十字路交差点を通りかかった際、信号が青でしたので、そのまま直進しようと交差点に進入しました。

その際、Oさんが直進しようとしているにもかかわらず、対向車線から相手方が右折してきて、衝突してしまいました。Oさんとしては、相手方のすぐ前に別の車がいたため(その車は直進)、相手方の車両は直前まで視界に入っておらず、相手方の車両に気が付いた時にはOさんは既に交差点に進入していましたので、避けることができませんでした。

事故発生状況(右直事故)の図

この事故でOさんは頚椎捻挫・腰椎捻挫の怪我を負ってしまいました。

相手方保険会社は、この交通事故の過失割合は20(Oさん):80(相手方)と主張してきました。

Oさんとしては、十字路交差点の直進車と対向右折車の関係では当然直進車が優先ですので、相手方が対向直進車(Oさん)がいるにもかかわらず、停止せずに右折をしてきたことが納得できず、ご自身の過失割合を20%と主張されたことに強い不満がありました。

その後、Oさんはご自身の車にドライブレコーダーが付いていたので、その映像を相手方保険会社に見せてご自身で交渉しましたが、相手方が過失割合20:80から全く態度を変えず、話が進みませんでした。

そこで、ご自身の保険の弁護士費用特約を使って私たちに交渉を依頼したいとのことで、ご相談にいらっしゃいました。

基本過失割合・修正要素は?

では、今回の交通事故の基本過失割合を考えます。

(「基本過失割合とは?」については、以前の記事で説明していますから、こちらもご覧ください。)

今回のような信号のある十字路交差点での直進車と対向右折車の事故(右直事故)の基本過失割合は、別冊判例タイムズの107図によって、20(直進車):80(対向右折車)とされています。

相手方保険会社は、今回の交通事故の過失割合は、この基本過失割合の20(Oさん):80(相手方)が妥当であると主張していました。

判例タイムズ107図
判例タイムズ107図

今回の交通事故現場の十字路交差点のように、信号機のある交差点の場合、青信号であれば、当然に直進車が優先となり、対向車線の右折車は、直進車に道を譲る必要があります。

ただ、直進車にも、道路交通法上、交差点を通過するときは右折車等に注意してできる限り安全な速度と方法で進行する義務がありますので、事故が発生してしまった場合には前方不注視などの何らかの過失があることが考えられるため、右直事故の場合、直進車の基本過失は20%とされています。

しかし、別冊判例タイムズの107図では、以下のような直進車に有利に過失割合を修正する修正要素が認められています。

・徐行なし:10%

・直近右折:10%

・早回り右折:5%

・大回り右折:5%

・合図なし:10%

・その他の著しい過失・重過失:10%

【徐行なし】

右折車が徐行せずに右折した場合、「徐行なし」として10%直進車に有利に修正するとされています。

右折車が十分に減速せずに右折してきた場合、直進車が衝突を回避できる可能性が低くなるため、この場合は10%の修正で過失割合を10:90とするとされています。

ただ、ここでは法律上の徐行(道路交通法上は、「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行すること」とされていて、これは時速10km以下と考えられています。)まで求められていませんので、右折車として通常求められる程度のスピードであれば過失割合を修正することはできません。

【直近右折】

対向右折車が、直進車の至近距離で右折した場合も、「直近右折」として10%直進車に有利に修正するとされています。

これは、直進車が通常の速度で停止線を超えて交差点に入るところまで来ている状態で対抗車が右折を始めた場合をいいますが、この場合も直進車が衝突を回避できる可能性が低くなりますので、10%修正して、10:90の過失割合にするとされています。

【早回り右折・大回り右折】

早回り右折は、右折車が交差点の中心の直近の内側によらないで早回り(ショートカット)に右折する場合、大回り右折は、右方車が道路の中央に寄らないで右折する場合をいいます。

これらは、直進車から対抗車が右折することを予測しにくく、事故発生の危険性が高いため、修正要素として5%修正することとされています。

【合図なし】

これは、右折車が方向指示器を出さずに右折する場合をいいます。

この場合も、直進車からは対抗車が右折することを予測しにくく、危険性が高いため、10%修正するとされています。

今回の交通事故で、Oさんの過失が基本過失割合の20%よりも小さいと主張するためには、上記のようなOさんに有利な修正要素があることを主張する必要がありました。

そこで、私たちは、Oさんの車両のドライブレコーダーの映像を確認したところ、相手方は、Oさんが停止線を超えて交差点に進入したより後のタイミングで右折を開始していましたので、「直近右折」であることを主張することにしました。

また、ドライブレコーダーの映像では、相手方が若干内回りに右折しているように見えることから、「早回り右折」であることも主張できる可能性がありました。さらに、相手方の右折時の減速が十分でないように見えましたので、「徐行なし」も主張できる可能性があると考えました。

交渉の結果~過失割合10:90で解決~

上記のように、別冊判例タイムズ107図の基本過失割合20:80を主張していた保険会社に対して、私たちは、

①Oさんが停止線を超えて交差点に入ってから相手方が右折を開始していることを理由に「直近右折」で10%修正すべき

②相手方が交差点の中心を通らずに内回りで右折していることから「早回り右折」で5%修正すべき

③相手方が右折時に十分に減速していないように見えることから「徐行なし」で10%修正すべき

と3点の修正要素を主張しました(3点全部が認められると25%修正になりますが、0:100以上になりませんので、0:100という主張になります。)

これに対して、当初、相手方保険会社は、

①Oさんが停止線を超えたあたりで、相手方も停止線を超えているから直近右折には当たらない(これは、正直、意味不明でした。)

②相手方は内回りしていないから早回り右折には当たらない(ドライブレコーダーの映像では、相手方は交差点の中心を通っていないように見えますので、これは苦しい主張のように感じました。)

③相手方は右折車として求められる程度の減速はしているから徐行なしには当たらない(ドライブレコーダーの映像では、相手方が十分に減速していないように見えますが、相手方の速度まではわかりませんので、この主張は一旦保留にしました。)

④むしろ、相手方の左前タイヤ付近にOさんの車両の前部が衝突していることから、相手方が先に右折していたところにOさんが衝突したと考えられ、「既右折」で相手方に有利に修正するべきと主張できるところ、相手方としては基本過失割合まで譲歩しているから、基本過失の20:80以上は譲れない

と回答してきました。

④の「既右折」の主張は、直進車が交差点に進入する時点で、対抗右折車が右折を完了しているかそれに近い状態の場合、直進車が事故を回避できる余地が大きくなるため、右折車に有利に10%修正するというものになります。

ただ、今回の交通事故の場合、ドライブレコーダーの映像上、明らかに相手方は既右折ではなく、むしろ相手方の直近右折であることが明らかでした。

そして、直近右折であるにもかかわらず、相手方の左前タイヤ付近にOさんの車両の前部が衝突していることは、逆に相手方が早回り右折したことや徐行なしで右折していることを伺わせる事情だと考えられました。

そこで、私たちはOさんと相談の上、相手方保険会社に対して、
・「既右折」の主張は認めないこと
・「徐行なし」の主張は一旦保留にして、直近右折と早回り右折の修正で5:95なら示談に応じること
・交渉が決裂して裁判になった場合には、徐行なしも含めて改めて0:100を主張すること
を伝え、再度検討するよう促しました。

その結果、相手方保険会社は、10:90であれば示談に応じると回答してきました。

保険会社の担当によると、相手方本人が5:95までは譲らないと言っていることから、10:90で示談できなければ、裁判を起こしてもらって構わないとのことでした。

Oさんとしては、本来0:100を主張したいところ、5:95まで譲ったというお気持ちでしたので、10:90で示談するか、0:100を主張して裁判を起こすか、かなり悩まれたようでした。

その後、結局、Oさんは、裁判になるといつまでもこの交通事故のことを考えていないといけないということで、早期解決のために10:90での示談を選択することにしました。

まとめ

今回の交通事故では、交渉の結果、過失割合が

20:80→10:90

となり、0:100や5:95までは修正できませんでしたが、直近右折の主張などによってもともとの相手方の主張よりは10%修正することができ、Oさんからは感謝のお言葉をいただきました。

今回のような交差点での右直事故は、よくある事故類型ですので、Oさんと同じように過失割合でお困りの方も多いと思います。

私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。

全国からご相談いただいております。

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投稿者プロフィール

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 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)