過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号なし・一時停止なし・同幅員(左方優先の交差点))の交通事故~

2024年3月31日

皆様、お久しぶりです!

優誠法律事務所です。

昨年10月以降、交通事故の新しいサイト制作のためブログの更新をお休みしておりましたが、ようやく新サイト(https://yusei-jikolaw.com)をリリースできましたので、ブログも再開したいと思います。

今年最初のテーマは、十字路交差点の過失割合です。

今回は、信号のない十字路交差点(双方に一時停止の規制がなく、道路の幅も同程度)での交通事故の過失割合が問題になった事例をご紹介します。

以前、駐車場内の交通事故についてご紹介した記事で、

●過失割合とは?

●基本過失割合とは?

●弁護士にご依頼いただいた場合の過失割合の争い方

など、過失割合についての基本的なことを解説していますので、是非こちらの記事(過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その1~もご覧ください。

今回ご紹介するNさんの事例も、比較的よく発生する交通事故の類型ですので、同じような事故の過失割合でお困りの方の参考になれば幸いです。

今回の依頼者~信号のない十字路交差点で直進車同士の車VS車の交通事故~

今回の依頼者Nさんは、千葉県在住で

・交通事故は信号のない十字路交差点で発生

・双方とも直進の自動車同士

・双方とも一時停止はなく、道路幅は同程度

・相手方はNさんの左側道路から進入している

・Nさんの車両の助手席ドア付近に相手方の前部が衝突

・相手方に過失割合60:40を主張されている

・交通事故による怪我は頚椎捻挫

・相手方保険会社が治療費の支払いを拒否している

・治療期間は約6ヶ月間

・弁護士特約が使用可能

という内容でした。

【本件の争点】過失割合

事故現場の写真

上の写真が本件の交通事故の現場となった交差点です(Nさん側から見た写真。事故当日の写真ではありません。)。

Nさんは、ご自宅に帰宅する途中で近所の道路を走行していて、今回の交通事故現場となった十字路交差点を通りかかりました。

この交差点は、Nさん側には一時停止線はなく、Nさんから見て左右に交差する道路には停止線がありますが、「止まれ」の標識はなく交差する道路にも一時停止の規制はありません。ただ、Nさんは、交差する道路に停止線があることから、これを一時停止の規制と勘違いしており、Nさん側が優先で左右の道路から走行してくる車は一時停止する必要があると勘違いしていました。

相手方から見た事故現場の交差点の写真

(こちらが相手方から見た事故現場の交差点)

Nさんは、この十字路交差点を通りかかった際、Nさんから見て右側は見通しがいいものの、左側は民家があって見通しが悪いため、交差点手前で少し減速して交差点を直進しようとしました

その際、相手方がNさんから見て左側の道路からこの交差点にノーブレーキで進入して来たため、Nさんの車両に衝突してしまい、Nさんの車両は、衝突の勢いで弾き飛ばされて、Nさんから見て右奥の民家のブロック塀に激突して止まりました。

事故発生状況の図

この事故でNさんは頚椎捻挫の怪我を負い、治療が必要になりましたが、相手方保険会社は、この交通事故の過失割合は60(Nさん):40(相手方)でNさんの過失の方が大きいと主張して、保険会社が直接病院に治療費を払う対応(これを「一括対応」といいます。)をしてくれませんでした。

Nさんは、この十字路交差点では、ご自身の方が優先だと考えていたため、Nさんの過失の方が大きいと主張されたことも、相手方保険会社が治療費の一括対応をしてくれずNさんが病院に治療費を払わないといけないと言われたことにも大きな不満がありました。

その後、Nさんはご自身で相手方保険会社と交渉しましたが、全く聞き入れられなかったため、私たちにご相談にいらっしゃいました。

幸いNさんの保険に弁護士費用特約があったため、費用の負担なくご依頼いただくことができました。

治療費は人身傷害特約で!

今回のNさんの交通事故の大きな争点は過失割合ですが、今回の事故では、相手方保険会社がNさんの過失の方が大きいと主張して、病院に治療費を払ってくれませんのでしたので、まずはNさんの治療費をどうするかを考えなければなりませんでした。

もちろん、相手方保険会社と交渉して治療費を払うよう求めることも考えられますが、残念ながら、相手方保険会社がすぐに過失についての見解を大きく変更するような事情がないと、その要求を通すことは難しいのが現実です。治療はすぐに必要ですから、ゆっくり交渉している時間もありません。そこで、最初に考えられる方法が、「人身傷害特約」を使う方法です。

人身傷害特約は、ご自身の自動車保険等に付帯されている特約で、交通事故で怪我をした場合に治療費や通院交通費、休業損害、慰謝料等を払ってくれる保険です。

つまり、相手方保険会社ではなく、ご自身の保険会社に治療費を払ってもらうということになります。

この人身傷害特約は、使用しても保険料が上がることもありませんし、今回のように過失割合で揉めていて相手方保険会社が治療費の対応をしてくれない場合には、治療費や休業損害の不安なく治療を受けられますのでとても有効です。

今回のNさんの自動車保険にも人身傷害特約が付いていましたので、私たちは人身傷害特約で治療費の対応をしてもらうことをご提案しました。

基本過失割合は?

では、今回の交通事故の基本過失割合を考えます。

(「基本過失割合」については、他の記事で解説していますから、こちらもご覧ください。)

相手方保険会社は、今回の事故は、信号のない十字路交差点(双方とも一時停止なし)での直進車両同士の事故であると主張し、別冊判例タイムズの101図によって、基本過失割合の60(Nさん):40(相手方)が妥当であると主張していました。

判例タイムズ101図
判例タイムズ101図
AとB同程度の速度の場合は基本過失割合40(A):60(B)
A減速せず・B減速の場合は基本過失割合60(A):40(B)
A減速・B減速せずの場合は基本過失割合20(A):80(B)

今回の交通事故現場の十字路交差点のように、信号機も一時停止もなく、双方の道路幅も同程度である場合、双方の道路に優先関係はありません。このような十字路交差点では、左側から進行してくる車両が優先とされています。これを「左方優先」といいます。

つまり、Nさんは、ご自身の道路が優先と思っていましたが、実際には、今回の十字路交差点では相手方保険会社の主張するように、左方優先で左側の道路から進行してきた相手方の方が優先となるのが原則なのです。

しかし、別冊判例タイムズの101図では、右方車が減速して、左方車が減速していない場合には、基本過失割合が逆転して40(Nさん):60(相手方)になるとされています。

そのため、今回の交通事故では、左方優先の原則を覆してNさんの過失の方が小さいと主張するためには、Nさんが減速していて、かつ、相手方が減速していないことを主張する必要がありました。

交渉の結果~過失割合40:60で解決~

過失割合60(Nさん):40(相手方)を主張していた相手方保険会社に対して、私たちは、Nさんが交差点前で減速していること、相手方が減速せずに交差点に進入していることを理由に、今回の交通事故の基本過失割合は別冊判例タイムズ101図の「左方車減速せず・右方車減速」の40(Nさん):60(相手方)であると主張しました。

これに対し、当初、相手方保険会社は、今回は双方の車両ともにドライブレコーダーがなかったことからNさんが減速していることも相手方が減速していないことも証明できないから、左方優先で過失割合は60:40のままと回答してきました。

しかし、今回の事故では、Nさんの車両が相手方に衝突された後、衝突の勢いで交差点の角の民家のブロック塀に突っ込んでおり、相手方がかなりのスピードで交差点に進入したことは明らかでした。そのため、私たちはその点を強く主張して、相手方が減速していないことは明らかであることを指摘しました。

また、確かにNさんが減速した証拠はないものの、双方車両の前方部分同士の衝突ではなく、Nさんの車両の助手席ドア付近に相手方の前部が衝突していることから、Nさんの方が少し早く交差点に進入していることが明らかであることも主張しました(一方の先入が明らかな場合には、他方の車両の「著しい過失」で過失割合を10%修正するとされています。)。

さらに、今回の事故現場の道路の制限速度は時速30キロですが、相手方は、衝突したNさんの車両を弾き飛ばして角の民家のブロック塀に二次衝突させるほどのスピードが出ていたことを考えると、速度違反の可能性が高いことも指摘しました(時速15キロ以上30キロ未満の速度違反は「著しい過失」で過失割合を10%修正するとされています。)。

そして、交渉の結果、ようやく相手方保険会社も相手方の過失の方が大きいことを認め、40:60での示談となりました。

まとめ

今回の交通事故では、交渉の結果、過失割合が60:40から40:60となり、完全に逆転させることができました。

Nさんは、私たちにご依頼いただく前にご自身でも相手方保険会社と相当交渉していましたが、相手方が左方優先という点にかなりこだわっていましたので、全く聞き入れられませんでした。それだけにNさんには依頼した甲斐があったと大変喜んでいただきました。

また、通常は双方に過失がある交通事故の場合、被害者側の過失割合分は相手方から賠償を受けることができません。つまり、今回のNさんの場合は、過失割合40:60で示談しましたので、治療費や慰謝料の40%分は相手方から受け取ることができず、60%のみの賠償となります。

しかし、今回は、治療費の対応もあって最初から人身傷害特約を使ったため、ご自身の保険会社から治療費や慰謝料の一部が支払われました。裁判所の考え方では、人身傷害特約は被害者側に過失があった場合に相手方から受け取れない部分を補填する保険と考えますので(これを「訴訟基準差額説」といいます)、人身傷害特約で支払われた金額はNさんの過失の40%部分から充当され、相手方保険会社に残りの慰謝料等を請求することができます。

そのため、今回Nさんが双方の保険会社から受け取った金額を合計すると、結果的に過失割合0:100の事故と同程度の損害賠償を受けることができました。この訴訟基準差額は説明が難しいので、次の記事(一部過失のある被害者でも100%の賠償を受ける方法~人身傷害保険と訴訟基準差額説~)でご紹介しています。

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また、他の過失割合を修正できた交通事故事例もご紹介しておりますので、よろしければそちらもご覧ください。

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投稿者プロフィール

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 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)