過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その7~

2024年3月31日

皆様、こんにちは!

優誠法律事務所です。

今回のテーマは駐車場内の交通事故の過失割合です。

以前、当ブログで駐車場内の交通事故の事例を6つほどご紹介しましたが、これらの記事を読んでくださっている方がとても多いようで、日本全国から駐車場内の交通事故の過失割合に関するご相談を多数いただいております。

駐車場内の交通事故は様々な形で発生しますが、基本過失割合を検討する際に参照される「別冊判例タイムズ」に掲載されている自動車同士の駐車場内の事故類型は3つしかありません(この3類型については以前の記事「過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その2~」でご説明していますので、そちらもご覧ください。)。

実際には、この3つの類型に当てはまらない事故も多いですから、保険会社が適切な過失割合を検討できていないケースも散見されます。

そのような事情もあって、駐車場内の交通事故のご相談が多いのではないかと思いますので、今回も皆様のご参考になりそうなケースをご紹介していきたいと思います。

今回の事例は、大型店の広い駐車場の出入口付近で、加害者が後方を確認せずに後退してしまい、続いて駐車場に入ってきた後続車に逆突した交通事故です。

当事務所でも時々ご相談をお受けするような事故類型ですので、同じような交通事故も多いのかもしれません。同様の事故でお困りの方はご参考にしていただけますと幸いです。

今回の依頼者~駐車場出入口付近で車VS車の交通事故~

今回の依頼者Sさんは、三重県在住で

・交通事故は大型店の広い駐車場の出入口付近

・相手方が出入口付近の駐車枠に入れるために後退し、続けて駐車場に入ってきたSさんに逆突した事故

・ドライブレコーダーと店舗の防犯カメラ映像あり

・相手方に過失割合8:2を主張されている

・交通事故による怪我はなし

・弁護士特約が使用可能

という内容でした。

【本件の争点】過失割合

事故現場の駐車場出入口の映像

上が本件の交通事故の現場となった駐車場です。相手方は、一度左の通路に曲がるような動きでしたが、右側の手前から2つ目の駐車枠に入れようとしてバックを始めました。

事故発生時の被害者・加害者の車の動きの見取図

Sさんは、買い物をするために今回の交通事故現場となった店舗を訪れました。

交通事故直前、Sさんの走行していた道路のすぐ前を走っていた相手方が、事故現場の駐車場に入って行き、同じ店舗に向かっていたSさんも後ろから続いて駐車場に入りました。

そうしたところ、相手方は、左の通路に曲がって行ったように見えましたが、急に止まり、後退し始めました。

このとき、相手方はハザードを出しておらず、Sさんは相手方がバックしてくるとは思っていませんでしたが、バックランプが付いたことに気が付き、慌てて停車しました。

しかし、相手方は、後方を確認しておらず、Sさんの車両に気が付かずにそのまま逆突してしまいました。

相手方は、上の図の丸が付いている駐車枠が空いていたので、そこにバックで駐車しようとしたとのことでした。

しかし、全く左後方を確認せずに後退を始めてしまい、後ろから駐車場に入ってきたSさんの車両には気が付かなかったようです。

Sさんとしては、駐車場の出入口で停止していたところに逆突されており、後ろは交通量の多い道路で回避のために後退することはできませんし、相手方が予想できない動きで後退して来たため、避けられない事故だったとお考えで、過失割合は0(Sさん):100(相手)と考えていました。

しかし、相手方の保険会社は、駐車区画進入車と通路走行車の事故類型である判例タイムズ336図を持ち出し、基本過失割合は、80(Sさん):20(相手)との話をしていました。

判例タイムズ336図
判例タイムズ336図
基本過失割合は80(Ⓐ):20(Ⓑ)

Sさんとしては、ご自身の方が過失が大きいなどということには到底納得できず、私たちのブログの記事(過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その3~)をご覧になって、判例タイムズ336図は適用されないのではないかとご相談いただきました。

そして、Sさんの自動車保険には弁護士特約が付いており、弁護士費用や交通費・日当などのご負担なくご依頼いただける状態でしたので、当事務所でお引き受けすることになりました。

基本過失割合の検討~336図に該当するか?~

まず、今回の交通事故の基本過失割合を考えます。

(「基本過失割合とは?」については、以前の記事「過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その1~」で説明していますので、こちらもご覧ください。)

冒頭でもご説明したとおり、別冊判例タイムズに掲載されている駐車場内の交通事故の類型は3つしかありません。

そして、今回の事故は、駐車区画に進入しようとして後退していた相手方と、通路を走行してきて直前に一時停止したSさんが衝突したものと考えれば、別冊判例タイムズの336図に該当するという主張もあり得ます。

今回の相手方保険会社も、当初このような主張をしていました。

336図を前提とすると、基本過失割合は80(Sさん):20(相手)となります。

しかし、336図は、通路進行車から見てある程度手前の位置で、客観的に駐車区画進入車の進入動作が認識し得る状態に至っていたことを前提としています。

そのため、今回のように両車が接近した時点で駐車区画進入車が急に進入動作を始めた場合は該当しません。

今回の場合も、相手方が駐車区画へ入るために後退を始めた場面でSさんが通路を走行してきた訳ではなく、Sさんが相手方のすぐ後ろを走行していた状況で、相手方が急に後退を始めたことで衝突していますので、本件は336図には該当しない事例と考えられました。

そのため、別冊判例タイムズには掲載がない事例ということで過失割合は個別の状況から判断することになります。

過失割合の検討~逆突の主張~

2でご説明したように、今回のSさんの交通事故は、別冊判例タイムズの336図には該当しないと考えましたので、Sさんからのご依頼後、相手方保険会社の担当者にその点を伝えたところ、意外とあっさり80:20の主張は取り下げました。

しかし、相手方保険会社は、相手方が駐車区画への進入を直近で始めたとしても、Sさんにも前方不注視の過失があると主張し、お互い様との考えで過失割合は50:50で検討して欲しいと言ってきました。

確かに、優先関係がなければ、50:50という判断もあり得ますし、特に駐車場内の事故では50:50を基本として考える傾向はあります。

しかし、今回の場合は、Sさんが一旦止まっていたところに相手方が後退を始めて衝突しており、もともと後退する車両の方が注意義務が大きいこと、特に駐車場の出入口付近は道路から入って来る車がいることが予想される場所で、より注意しなければならない場所であることから、私たちは、相手方の方が過失が大きい事故であると主張し、50:50はあり得ないと返答しました。

その上で、私たちは、Sさんの強い希望もあり、単に止まっていたSさんの車両に相手方が逆突(後退中に衝突すること)した事故であると主張し、相手方の一方的な過失によって発生した事故として、0(Sさん):100(相手)の主張をしました。

加えて、事故現場の通路は、車両が十分すれ違いできるほど広い通路で、相手方が入れようとしていた店舗側の出入口付近の駐車枠は、下の図のように、左に振らなくても駐車できるため、後続車両から見ると、相手方が後退する直前に左側に進行したのは、通路を左折したように見え、そこから後退してくることは予測できないと主張しました。

加害者側の適切な駐車動作の図

さらに、Sさんは出入口に停止していて後方には回避できないため、回避可能性がないことも主張しました。

交渉の結果~過失割合15:85で解決~

3でご説明したように、相手方保険会社は、当初の過失割合80(Sさん):20(相手)を撤回した後、50:50を主張していましたが、私たちは、0:100が妥当だと主張して交渉を続けました。

その後、相手方保険会社からは、顧問弁護士と相談したところ、顧問弁護士からも、お互い様という状況よりは相手方の方が過失が大きい事故類型であるとの助言を受けたとのことで、30(Sさん):70(相手)を主張してきました。

これに対し、Sさんも、当初は過失0%を主張していたものの、停止したのが直前だったことや、相手方との車間が多少詰まっていたこと、クラクションを鳴らさなかったことなどを考えると、0:100は難しいかもしれないとのお考えになっていましたが、それでも30%の過失は納得できないとお考えでした。

そのため、私たちは、相手方保険会社に対して過失割合10(Sさん):90(相手)までであれば応じる旨を回答して、再考を求めました。

そうしたところ、相手方からは、20(Sさん):80(相手)で再度提案がありました。

しかし、私たちの見解でも、駐車場の出入口付近という危険な場所で、後続車に予測できない動きをしておきながら、後方(出入口方向)を確認していないという相手方の過失を考えると、20:80でも妥当ではないように考えましたので、さらに交渉を続けました。

結局、その後に相手方が15(Sさん):85(相手方)まで譲歩し、Sさんも早期解決を希望したため、最終的に過失割合15:85で示談が成立しました。

まとめ

今回のSさんの場合、結果的に80(Sさん):20(相手)から交渉が始まり、50:50→30:70→20:80と相手方が譲歩し、最終的に15:85まで過失割合を修正することができました。

相手方保険会社は、当初、別冊判例タイムズの336図を主張していましたが、当事務所に寄せられるご相談の中でも、336図に関する今回のようなご相談は本当に多いです。

他の記事でもご説明しましたが、別冊判例タイムズの駐車場内の類型が少ないために、どうしても保険会社は類型に当てはめようと考えてしまうのだと思います。

今回のように、私たちがご依頼を受けて、最初に336図が妥当でないことを説明すると、相手方保険会社が意外とあっさり受け入れることもあります。

ただ、なかなか被害者ご本人が保険会社とそのような交渉をするのは難しいでしょうから、提示された過失割合に納得できない場合には、ぜひ一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)