相続財産の不正引出を主張された事案

2024年3月28日

こんにちは、港区赤坂見附駅徒歩5分の優誠法律事務所です。

今回は、相続人が2名(兄弟)のケースで、一方の相続人からもう一方の相続人に対して、被相続人(亡父)の財産について、生前の不正な引出し・使い込みがあったと主張されたケースをご紹介します。

この事例では、不正な引出し・使い込みがあったと主張されていた相続人の方からご依頼を受け、最終的に不正引出に対する不当利得返還請求と遺産分割を一挙に解決することができました。

相続で争いが起きる場合、様々な争点が発生してしまうことも多く、事案によっては、遺産分割調停などの家庭裁判所での手続きだけでなく、地方裁判所の民事訴訟など、いくつかの手続きを経なければならないこともあります。

今回の事例は、遺産分割協議が必要であった上に、相手方から不正引出に対する不当利得返還請求も起こされましたが、結果的に一つの手続きで解決することができましたので、同様のことでお困りの方の参考になるかと思われます。

また、将来相続が発生したときにトラブルにならないように、ご両親を介護されている方が注意しておくべきポイントにも触れていきます。

事案の概要~不正な引出行為だとして不当利得返還請求を受けた事案~

今回のご依頼者Yさんは、父Aさんと同居していましたが、Aさんが亡くなりました。

相続人はYさんと、Yさんの弟のXさんのお二人です。

Aさんの財産としては、主に不動産と預金があり、不動産についてのみ遺言書がある状態でした。

したがって、預金については遺産分割を行う必要があります。

しかし、Xさんは、Yさんが被相続人Aさんの預金を使い込んだと主張して遺産分割協議に応じようとしませんでした。

そして、その後Xさんから、Aさんの生前に合計約5000万円の預金引き出しがあり、これはYさんによる不正な引出行為であるから、法定相続分の2分の1で按分した約2500万円を支払えとの裁判(不当利得返還請求事件)が提起されました。

対応に苦慮されたXさんから当事務所がご相談を受け、ご依頼を受けることとなりました。

裁判での反論・立証活動

本件のような被相続人の生前の預金引き出しの主張に対しては、以下のような反論を行うことが多いです。

・引出行為に関与していない

・被相続人が預金を引き出すのを補助したに過ぎない

・引出行為後に被相続人本人に交付した

・引出行為後に被相続人本人のために使った

本件では、Yさんは、Aさんと同居しており、ある時期以降はAさんの通帳を預かって管理するようになったのですが、使い込みと指摘される預金の引き出しの中には、Yさんが通帳を預かる以前のものも含まれていました。

したがって、この部分については、引出行為に関与していない、との反論を行いました。

ただ、引出行為に関与していないとの反論に対しては、相手方からAさんが預金引き出し時点でご自身で動ける心身の状態でなかったとの再反論や、Aさん口座からの引き出しと同時期にYさん口座に近似する金額の入金がある等の再反論がなされることが多いです。

そのため、そのような点について問題はないか、Yさんに念入りに確認をしたうえで反論を行いました。

一方、YさんがAさんから通帳を預かった後は、引出行為自体はYさんが行っていました。

ただ、引き出したお金は、体を悪くしていたAさんのための自宅のリフォーム工事であったり、日々の通院やAさんの食費等生活費に充てられたものでした。

したがって、この部分については、引出行為後にAさん本人のために使った、との反論を行うことになります。

幸い、リフォーム工事等の大きな出費に関しては、当時の領収書等が残っており、これによって立証ができました。

また、生活費については領収書を残していたわけではありませんでしたが、Yさんが一部期間について出納記録を付けているものがありました。

全期間について出納記録があったわけではありませんでしたが、記録のある期間から1か月分の大まかな支出を計算し、これを全期間に引き直すという方法で主張立証を行うことができました。

以上の反論から、不正引出を主張された約5000万円全てについてではないものの概ね反論を行うことができました。

裁判所の心証と解決方法

そうしたところ、裁判所からは、2500万円の返還請求のうち、証拠関係を考えると300万円を返還するという内容で和解するのが望ましいとの和解案の提示がありました。

この提案は、Yさんとしては受け入れられるものであり、Xさん側からは反発もありましたが、最終的には合意することができました。

ただ、本件ではYさんからXさんへの返還額が確定しても、まだ遺産分割協議が残っており、これを含めてどのように解決するかという問題が残っていました。

Xさんが提起した本件の訴訟は不当利得返還請求事件というものですが、これは地方裁判所に提起されていました。

地方裁判所では、引き出した預金を返しなさい、という判断はできるのですが、その他の遺産をどのように分けるか(遺産分割)については判断できません。

遺産分割は家庭裁判所の管轄になります。

したがって、筋を通すのであれば、地方裁判所に提起された本件訴訟を和解によって解決した後、別途、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる、ということになります。

しかし、本件は、預金の引き出しの点が解決すれば、その他の遺産分割自体は当事者間の話し合いで解決が見込める事案でした。

他方で、地方裁判所では遺産分割はできず、不当利得返還請求訴訟を地裁で解決した後に再度遺産分割について話し合いを行うということも迂遠に思われました。

以上の状況から、訴訟外で遺産分割の内容を話し合いで決定し、その内容を地方裁判所の和解調書に添付して、和解の中で「別紙のとおり遺産分割がなされていることを確認する」という条項を入れてもらうことになりました。

これにより、不当利得返還請求事件と遺産分割を一挙に解決することができました。

まとめ

以上、共同相続人から不当利得返還請求訴訟を提起されたものの、その訴訟の中で遺産分割を含めて一挙に解決できた事例についてご紹介しました。

不当利得返還請求に対する対応は丁寧に行う必要がありますが、一つ一つを別の手続きで行うとかなり時間がかかってしまうため、早期に解決する一つの方法として参考にしていただけるかと思います。

また、現在ご両親を介護されている方は、将来ご兄弟等の共同相続人から、預金の不正引出を主張される可能性があります。

考えられる対処としては、介護されているご両親についてかかった費用について、可能な限り記録を付けて置く、領収書等の証拠も残しておく、ということです。

今回のYさんも、記録があったおかげで立証活動ができました。

とはいえ、全てのケースで記録があるわけではなく、その場合でも行うことのできる立証活動はあります。

相続に関して預金の不正引出を主張された、あるいは共同相続人が預金を不正に引き出している疑いがあるという方は、まず弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

優誠法律事務所では交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。

0120-570-670

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

また、他にも相続問題に関する事例をご紹介しておりますので、よろしければそちらもご覧ください。

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投稿者プロフィール

 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
離婚や不倫に関するトラブルを多く担当してきましたので、皆様のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)