遺留分侵害額請求の基本的な解説

2024年3月28日

こんにちは、優誠法律事務所です。

今回のテーマは、相続に関するルールの1つである遺留分制度です。

遺留分制度に関しては、過去の記事である「遺留分侵害額請求で1億円以上を獲得できた事例」でも触れているところですが、今回の記事では、遺留分侵害額請求権について分かりやすくご説明したいと思います。

遺留分侵害額請求権は相続人にとって非常に重要である一方で、内容が分かりづらく、平成30年7月に民法が改正されたことに伴い中身も変化していることから、きちんと整理しておく必要があります。

それでは以下の目次に沿って、説明させていただきます。

遺留分とは

遺留分とは、相続人のために、遺産に対して最低限の保障がされている「一定の割合」のことをいいます。

法律上、被相続人は自分の財産を自由に処分することができます。

そのため、被相続人は、遺産の全てを特定の相続人に相続させる旨の遺言を残すこともできるのです。

しかし、この場合は、他の相続人は遺産を1円も相続することができなくなってしまい、このような相続人を保護する必要もあります。

このように、被相続人は自分の財産を自由に処分できる一方で、相続人を保護する必要があることから、遺産に対する最低限の保障を相続人に与えるという制度が設けられました。

遺留分の「一定の割合」は、「法定相続分の割合」×「総体的遺留分の割合」によって算出されます。

「総体的遺留分の割合」は、直系尊属(両親や祖父母など)のみが相続人である場合は1/3、それ以外の場合は1/2です。

遺留分の算出について、文章だけで理解することは難しいと思いますので、具体例を挙げて説明させていただきます。

遺留分の具体例の図

被相続人が亡くなり、相続人は配偶者と子供2人です。

法定相続分の割合は、配偶者が1/2、子供がそれぞれ1/4ずつです。

直系尊属のみが相続人である場合ではないので、「総体的遺留分の割合」は1/2です。

そのため、各相続人に保障されている遺留分の割合は、次のとおりになります。

配偶者:1/2(法定相続分の割合)×1/2(総体的遺留分の割合)=1/4
長 男:1/4(法定相続分の割合)×1/2(総体的遺留分の割合)=1/8
長 女:1/4(法定相続分の割合)×1/2(総体的遺留分の割合)=1/8

遺留分侵害額の請求とは

遺留分の侵害とは、被相続人が遺言を含む財産処分をした結果、相続人が現実に受ける相続利益が、相続人に保障されている「遺留分額」に満たない状態をいいます。

「遺留分額」は、「遺留分算定の基礎となる財産額」×「各相続人に保障されている遺留分の割合」によって算出されます。

このとき、遺留分を侵害された相続人が、被相続人から利益を受けた者に対し、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払を請求することを遺留分侵害額の請求といいます。

これらについても、具体例を挙げて説明させていただきます。

遺留分侵害の具体例の図

先程と同様、被相続人が亡くなり、相続人は配偶者と子供2人です。

各相続人に保障されている遺留分の割合は、先程解説したとおり、配偶者が1/4、子供がそれぞれ1/8ずつです。

被相続人は遺言を残しており、全ての遺産(預金1600万円)を、長男に相続させるという内容でした。なお、事案を簡素化するため、生前贈与・特別受益・債務額はないものと仮定します。

この事例では、被相続人が遺言による財産処分をした結果、配偶者と長女が受ける相続利益が0になっています。そのため、配偶者と長女が、遺留分の侵害を受けたことは明らかです。

この場合、配偶者と長女としては、被相続人から利益を受けた長男に対し、それぞれの遺留分額に相当する金銭の支払を請求することが考えられます。

それでは、配偶者と長女は、長男に対していくら請求できるのでしょうか。

上記のとおり、遺留分額は、「遺留分算定の基礎となる財産額」×「各相続人の遺留分の割合」によって算出されます。

本件では、「遺留分算定の基礎となる財産額」は1600万円であるため、配偶者と長女が請求できる金額は、次のとおりになります。

配偶者:1600万円(遺留分算定の基礎となる財産額)×1/4(遺留分の割合)
400万円

長 女:1600万円(遺留分算定の基礎となる財産額)×1/8(遺留分の割合)
200万円

遺留分制度の見直しについて~遺留分減殺請求との比較~

冒頭で触れたとおり、遺留分制度は、平成30年7月に民法が改正されたことに伴い中身が変化しています。

既にご説明したとおり、遺留分を侵害された相続人が、被相続人から利益を受けた者に対し、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払を請求することを「遺留分侵害額の請求」といいますが、改正前は「遺留分減殺請求」という呼び名でした。

また、改正前の「遺留分減殺請求」は、行使することによって共有状態が生じるという点が特徴でした。 この点についても、具体例を挙げて説明させていただきます。

遺留分減殺請求の具体例の図

先程と同様、被相続人が亡くなり、相続人は配偶者と子供2人です。

遺留分の割合は、配偶者が1/4、子供がそれぞれ1/8ずつです。

被相続人は遺言を残しており、唯一の遺産である土地建物(評価額5000万円)を、長男に相続させるという内容でした。なお、事案を簡素化するため、生前贈与・特別受益・債務額はないものと仮定します。

この場合、それぞれ侵害されている遺留分額は、次のとおりです。

配偶者:5000万円(遺留分算定の基礎となる財産額)×1/4(遺留分の割合)
1250万円

長 女:5000万円(遺留分算定の基礎となる財産額)×1/8(遺留分の割合)
625万円

ここで、改正前の「遺留分減殺請求」を行使した場合、遺産である土地建物は、長男・配偶者・長女の共有になります。

具体的には、次の持分割合による共有状態になります。

配偶者:1250万円÷5000万円(土地建物の評価額)=1/4

長 女:625万円÷5000万円(土地建物の評価額)=1/8

長 男:1-(1/4)-(1/8)=5/8

このように、改正前の「遺留分減殺請求」は、その行使によって共有状態が生じることになっていました。

この点については、事業承継の支障になっているという指摘や、持分権の処分に支障が出るという指摘がなされていました。

これらのことも踏まえ、改正後の「遺留分侵害額の請求」は金銭債権とし、行使によって共有関係は生じないことになりました。

例えば、上記のケースで「遺留分侵害額の請求」をした場合、配偶者は1250万円、長女は625万円の金銭請求を長男に対して行うことはできますが、土地建物の共有状態を主張することはできません。

まとめ

遺留分侵害額の請求は、書面ではなく口頭で行うことも可能です。

しかしながら、遺留分侵害額請求権には消滅時効があるため、いつどのような請求をしたのかが分かるように、配達証明付きの内容証明郵便を利用して請求した方がよいでしょう。

ただ、一般の方にとって、内容証明郵便を作成することは敷居が高いものと思われます。

また、本記事の具体例では、分かりやすくするために事案を簡素化しましたが、現実には、ここまでシンプルな事案は少ないです。

実際のところ、過去の記事である「遺留分侵害額請求で1億円以上を獲得できた事例」で紹介したように、特別受益等が絡んだりすることが多く、その場合は遺留分侵害額を計算するだけでも大変な作業になります。

このような作業についても、一般の方にとっては敷居が高いものと思われます。

遺留分侵害額の請求について相談されたいということでしたら、弁護士に依頼した場合の見通し等も含めて、お話しさせていただければと存じます。

優誠法律事務所では、遺留分侵害額の請求を含めた相続の初回相談は1時間無料ですので、お気軽にご連絡ください。

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投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」