残業代について詳しく解説!

2024年3月28日

皆さんこんにちは。

今回は残業代について解説します。

会社は、法定労働時間を超えて従業員に労働をさせた場合、割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければなりません。

しかし、そうは言っても、適法に残業代が支払われているのかどうか、簡単に判断できないケースもあります。

まず、労働時間と一口に言っても、実労働時間と所定労働時間ではそれぞれ意味が異なるなど、用語を正確に理解する必要があります。

そして、毎月支払われる賃金に固定残業代が含まれているケース、管理職であることを理由に残業代の支払いは不要であるとされているケース、などについては、そもそも残業代自体の有無が問題となります。

また、労働時間が管理されていないケースや、労働時間が管理されているとしても退勤処理をしてから残業をしているケースなどについては、どのように残業代を計算するのか、という問題があります。

本記事では、まず、残業代に関する基本的事項や用語の説明をした上で、残業代の計算方法を詳しくお伝えします。

皆さんのお役に立てますと幸いです。

残業代の時効について

まず、いつの分の残業代まで請求できるかという点ですが、残業代は毎月の給料日(月給制の場合)からその月の分について消滅時効が進行しますから、消滅時効が完成してしまっている部分については請求することができません

令和2年4月1日以降に支払期日が到来する残業代の請求権の消滅時効は、支払期日から3年間です(法改正により5年間とされましたが、当面は3年間です。)。

なお、法改正前の令和2年3月31日までに支払期日が到来した残業代の請求権の消滅時効は2年間でした。

残業代が発生しない、または計算方法が通常と異なるケース

管理監督者

管理監督者については、会社が時間外労働に対する割増賃金を支払わなくてよいことになっています。

もっとも、深夜労働に対する割増賃金を支払う義務はあります。

管理監督者=管理職ではなく、管理監督者に当たるかどうかは、次の①~③が要件とされています。

① 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること

② 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること

③ 一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること

変形労働時間制

一定の期間(1か月以内、1年以内または1週間以内。この期間を変形期間といいます。)につき、1週間当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

すなわち、変形期間を平均して、1週間当たりの所定労働時間が40時間以内に定められていれば、予め所定労働として特定された日や週の特定された時間の範囲で1日8時間、1週40時間を超えて労働しても、割増賃金は発生しません。

もっとも、所定労働時間を超える労働に対しては割増賃金が発生します。

したがって、残業代を計算する際にも注意が必要となります。

フレックスタイム制

1か月などの単位期間の中で総所定労働時間を定め、労働者がその範囲内で各日の始業時刻と終業時刻を自分で決めて働く制度です。

この場合も、総所定労働時間を超えた労働に対しては割増賃金が発生します。

みなし労働時間制

みなし労働時間制の適用が認められると、実際の労働時間は問題にならず、みなし時間だけ労働したとみなされます。

たとえば、みなし時間が8時間の場合、実際には11時間労働したとしても8時間だけ労働したものとみなされ、会社は割増賃金を支払う必要がありません。

このみなし労働時間制には、事業場外型、専門業務型及び企画業務型の三類型があります。  

事業場外型は、外回りの営業社員や旅行会社の添乗員等、事業場外での業務が多いため労働時間の把握が困難な場合に適用されますが、現代においては通信技術の発達により事業場外の業務についても労働時間の管理がし易くなっているため、事業場外みなし労働制の適用が適法と認められるケースは限定的になっています。   

専門業務型と企画業務型は、併せて裁量労働みなし労働時間制といわれ、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある場合に適用され得るものです。

用語の説明

労働時間について

ア 労働時間

労働基準法において、労働時間を定義する規定は存在しません。

労働時間については、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。」とした判例があり(三菱重工長崎造船所事件、最高裁判例平成12年3月9日)、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価される時間をいうと解釈されています。

労働時間該当性が問題となったケースとして次のようなものがあります。

労働の前後に着用を義務付けられている作業服を脱ぎ着する時間や点呼の時間、業務上の必要性が生じた場合にはすぐに対応しなければならないとされている休憩時間・仮眠時間などが労働時間に該当すると判断されました。

一方、終業後の洗身・入浴時間や持ち帰り残業をした時間、通勤時間や出張の移動時間について労働時間制が否定されました。

もっとも、物品の監視・管理や商品または現金、貴金属の運搬など、使用者から特段の用務を命じられている場合は、移動時間が原則として労働時間に該当する、と判断されています。

イ 所定労働時間

労働契約に基づいて労働者が労働義務を負う時間をいいます。

「始業時刻から終業時刻までの時間-休憩時間」のことです。

ウ 休憩時間

使用者は、労働者に、1日の労働時間が6時間を超える場合においては45分間以上、8時間を超える場合においては1時間以上の休憩時間を与えなければなりません。

また、使用者は、労働者に休憩時間を自由に利用させなければなりません。

労働契約上休憩時間とされている時間であっても、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価されれば、労働時間に該当することになります。

逆に言えば、労働契約上休憩時間とされている時間について、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価されなければ休憩時間として扱われることになりますので、休憩時間に労働させられていたと主張したい場合、それを労働者が立証する必要があります。

エ 法定時間外労働

使用者は、労働者に、1週間に40時間を超えて労働させてはならず、また、1日に8時間を超えて労働させてはなりません(労働基準法32条1項・2項)。

もっとも、使用者と労働者が、法定時間外労働または法定休日労働を労働者に行わせることを内容とする労使協定(通称:三六協定といいます。)を締結・届出した場合には、上記の規制を超えて労働をさせることができます(上限はあります)。

この規制を超える労働を、法定時間外労働または法定休日労働といいます。

割増賃金が発生するのは、あくまでも法定時間外労働または法定休日労働をした場合ですので、所定労働時間を超えて労働したとしても、法定内労働であれば、割増賃金は発生しません。

つまり、週休2日で1日の所定労働時間が7時間の場合、所定休日でない日に1時間残業したとしても割増賃金は発生しない、ということです。

この場合、残業した1時間について追加の賃金が発生するかどうかは、就業規則等の定めによります。

例えば、法定内残業については通常の賃金(月給制の基本給や年俸制の年俸)に含まれる旨の合意や規定があれば、法定内残業については追加の賃金は発生しません。

なお、三六協定を結んでいなくとも、法定時間外労働や法定休日労働をした場合には、割増賃金が支払われなければなりません。

休日について

ア 法定休日

使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりませんが、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合には、毎週1日の休日を与える必要はありません。

この法律により定められた休日を法定休日といいます。

週休二日制は法律上義務付けられたものではなく、週休二日制を採用する場合、法定休日はそのうち1日のみであり、残り1日の休日は労働契約上の休日と扱われ、賃金の計算方法も異なります。

イ 所定休日

労働契約上の休日のことです。

法定休日に当たる場合も、そうでない場合もあります。

実労働時間の特定・証明

残業代を計算するためには、実際の労働時間、つまり、実労働時間を特定する必要があります。

タイムカードや勤怠管理システムにより労働時間が適正に管理され、実労働時間が容易に把握できるのであれば問題ありませんが、労働時間が管理されていなかったり、管理されているとしても、実際の労働時間とズレがあったりする場合には、何らかの方法で実労働時間を特定・立証しなければなりません。

実労働時間の特定・立証方法として、タイムカードや勤怠管理システムの履歴の他、職場への入退室記録や職場のある建物への入退館記録、パソコンのログイン・ログアウトの履歴、日報などがあります。

残業代(割増賃金)の計算方法

では次に、残業代の計算方法をみていきましょう。

残業代は、

時間単価 × 割増賃金が発生する労働時間 × 割増率

の計算式で計算します。

時間単価は、

基礎賃金 ÷ 月平均所定労働時間

によって算出されます。

  

基礎賃金とは、通常の労働時間または労働日の賃金を指し、家族手当や通勤手当、賞与などは含まれません。

月平均所定労働時間の算出手順は、次のとおりです。

① 年間所定労働日数を出す。

1年間の日数 - 年間所定休日

② 年間所定労働時間を出す。

年間所定労働日数(①) × 1日の所定労働時間数

③ 12で割る。

年間所定労働時間数(②) ÷ 12ヶ月

割増賃金が発生する労働時間は、

実労働時間 - 所定労働時間

です。

割増率は、次のとおりです。

① 1日8時間超または1週間40時間超→25%増し

② 1か月60時間超→50%増し ※当面中小企業は対象外

③ 法定休日→35%増し

④ 深夜(22時~5時)→25%増し

①~③については重複して適用されることはありませんが、④については、法定時間外労働かつ深夜労働の場合には①または②と④が、法定休日労働かつ深夜労働の場合には③と④が同時に適用されます。

残業代計算に必要な情報が全てそろったら、上記の

時間単価 × 割増賃金が発生する労働時間 × 割増率

の計算式にあてはめて残業代を計算します。

残業代計算の具体例

毎月の賃金の内訳が基本給30万円、職務手当5万円、通勤手当8000円(実費相当額)となっている労働者の、令和4年における残業代を計算してみましょう。

1日の所定労働時間8時間、所定休日は土日祝日、1月1日~3日、8月13日~16日及び12月29日~31日とします(令和4年の所定休日は126日です)。

  年間所定労働時間は、

  8時間 × (365日-126日) = 1912時間

  月平均所定労働時間は、

  1912時間 ÷ 12 ≒ 159.33時間(小数点第3位を四捨五入)

  時間単価は、

  (30万円+5万円) ÷ 159.33 ≒ 2,196円(1円未満切捨て)

年間の法定時間外労働が240時間で(このうち深夜労働が20時間)、休日労働が60時間だったとすると、残業代は次のとおりとなります。

2,196円 × 1.25 × 240時間 = 658,800円…①

2,196円 × 0.25 × 20時間 = 10,980円…②

2,196円 × 1.35 × 60時間 = 177,876円…③

①+②+③=847,656円

  

まとめ

ここまで、残業代計算に必要な情報をお伝えしてきましたが、ご自身で全て理解し、資料をそろえて残業代を計算することは相当に困難なことかと思います。

残業代が発生しない場合や、通常と異なる計算になる場合などについても、一つ一つ要件があり、具体的なケースに当てはまるかどうかの判断は難しいと思います。

そこで、ご自身に未払いの残業代があるのではないかと思われている方は、一度ぜひ弁護士にご相談ください。優誠法律事務所では、残業代に関するご相談を初回無料で承ります。

☎0120-570-670

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投稿者プロフィール

 髙玉亜紀 弁護士

約10年間の専業主婦時代を経て弁護士になり、これまで、離婚や労働を始めとする民事事件、そして、刑事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、併せて法的なポイントを分かり易くお伝えしていきます。
■経歴
2000年3月 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業
2013年3月 早稲田大学大学院法務研究科修了
2015年12月 最高裁判所司法研修所(東京地方裁判所所属) 修了 
2016年1月 ベリーベスト法律事務所入所
2023年2月 優誠法律事務所参画
2024年1月 企業内弁護士に転身
■獲得した判決
東京地裁判決令和2年6月10日判決(アクサ生命保険事件)(労働判例1230号71頁)