過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号)での右直事故の右折車側~
皆さん、こんにちは。
優誠法律事務所です。
今回は、大きな交差点で発生した右折車と対向直進車の交通事故(右直事故)で、過失割合を修正できた事例をご紹介します。
以前、当ブログで、信号のある十字路交差点(双方青信号)での直進車と対向右折車の交通事故(右直事故)の過失割合が問題になった事例をご紹介しましたが(過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号・右直事故)の交通事故~)、多くの方にご覧いただいているようで、掲載後、この記事に関する多数のご相談をいただいております。
そして、これらのご相談の中には、直進車側だけでなく、右折車の方からも過失割合に納得できない、ご自身の保険会社の担当者が加害側だと決めつけて思うように交渉してくれない、というご相談もありました。
十字路交差点での右直事故は、比較的よく発生する交通事故の類型の一つですので、同じような交通事故に遭って困っている方も多いのかもしれません。
そこで、今回は、前回の右直事故の記事とは反対で、右折車の側(一般的に過失が大きいとされる側)からご相談いただき、過失割合を修正できた事例をご紹介します。
同じような交通事故の過失割合でお困りの方の参考になれば幸いです。
今回の依頼者~信号のある大きな十字路交差点で右折車と対向直進車の車VS車の交通事故~
今回の依頼者Xさんは、沖縄県在住で
・交通事故現場は信号のある十字路交差点
・片側4車線の幹線道路で大きな交差点
・Xさんは青信号で交差点を右折
・対向4車線の車両が途切れたタイミングで右折開始
・右折中に第1車線を猛スピードで走行してきた相手方と衝突
・相手方に過失割合80:20を主張されている
・被害車両は大破して全損
・交通事故による怪我は頚椎捻挫
・治療期間は約8ヶ月間
・弁護士特約が使用可能
という内容でした。
【本件の争点】過失割合
上の写真が本件の交通事故の現場となった交差点です(事故当日の写真ではありません。)。
Xさんは、この十字路交差点の第4車線(右折レーン)を走行して右折しようとしており、信号が青でしたので、まず交差点中央の右折車の待機場所まで停止し、対向車線の車の流れが途切れるのを待ちました。
その後、対向車線の第1車線から第3車線(対向も第4車線は右折レーン)の車の流れが途切れましたので、Xさんは交差点中央の待機場所から右折を開始しました。
しかし、このとき、対向の第1車線を相手方がかなりの速度で走行してきて、Xさんは車両の側面に衝突されてしまいました。
この事故でXさんは頚椎捻挫の怪我を負いました。
相手方保険会社は、この交通事故の過失割合は80(Xさん):20(相手方)と主張してきました。
Xさんとしては、直進車が優先されるのは理解していたものの、片側4車線道路の大きな交差点であったこともあり、かなり注意深く対向車線の状況を確認して、右折できると判断したタイミングで右折を開始しました。
そのため、その状況で右折進行中に対向車に衝突されたことにはとても驚いたそうです。
同時に、相手方は、前方を確認していればXさんが右折していることが分かる状況で、相当なスピードで交差点に進入してきており、相手方の運転に強い不満がありました。
それにもかかわらず、ご自身の過失割合を80%と主張されたことに憤慨されて、当事務所にご相談いただきました。
幸いXさんの任意保険には弁護士費用特約が付いていましたので、私たちに交渉を依頼したいとのご希望でした。
基本過失割合・修正要素は?
まず、今回の交通事故の基本過失割合を考えます。
(「基本過失割合とは?」については、以前の記事で説明していますから、こちらもご覧ください。)
信号のある十字路交差点での双方青信号の直進車と対向右折車の事故(右直事故)の基本過失割合は、別冊判例タイムズの107図によって、20(直進車):80(対向右折車)とされています。
相手方保険会社は、今回の交通事故の過失割合は、この基本過失割合の80(Xさん):20(相手方)が妥当であると主張していました。
信号機のある十字路交差点の場合、青信号であれば、当然に直進車が優先となり、対向車線の右折車は、直進車に道を譲る必要があります。
そのため、右直事故の場合、右折車の過失が大きくなり、右折車の基本過失は80%とされています。
しかし、別冊判例タイムズの107図では、以下のような右折車に有利に過失割合を修正する修正要素が認められています。
・既右折:10%
・15km以上の速度違反:10%
・30km以上の速度違反:20%
・直進車側の前が詰まっているなど交差点内で停止するおそれがある状態での交差点進入:10%
・その他の著しい過失・重過失:10~20%
【既右折】
右折車が既に右折を開始していた場合、「既右折」として10%右折車に有利に修正するとされています。
右折車が、既に右折を開始していれば、直進車が右折車の存在を認識でき、道を譲って衝突を回避できる可能性がある一方、右折車側は回避できる可能性が下がりますので、10%修正することとされています。
【速度違反】
直進車が制限速度違反をして交差点に進入した場合、直進車の速度違反の程度によって10~20%右折車に有利に修正するとされています。
これは、直進車が速度違反をしている訳ですから、当然のこととも言えますが、右折車側としても猛スピードで交差点に進入してくる直進車がいることまでは予測できず、右折車が衝突を回避できる可能性が低くなりますので、10~20%修正されます。
【交差点内で停止するおそれがある状態での交差点進入】
道路交通法50条は、渋滞などで前が詰まっていて交差点内で停止するおそれがある場合には、交差点に進入してはならないと定めています。
これは、他の車両の交通の妨げにならないようにするためです。
このような状態で直進車が交差点に進入した場合には、右折車の進路が妨害される可能性があり、事故発生の危険性が高いため、修正要素として10%修正することとされています。
今回の交通事故で、Xさんの過失が基本過失割合の80%よりも小さいと主張するためには、上記のようなXさんに有利な修正要素があることを主張する必要がありました。
今回は、双方の車両にドライブレコーダーがありませんでしたので、事故状況を客観的に確認できるものがなく、私たちは、刑事手続きの終了を待って刑事記録を取り寄せ、実況見分調書を確認しました。
そうしたところ、Xさんのご主張のとおり、衝突地点は第1車線上であることが確認できました。
また、双方の車両の写真から、相手方がXさんの車両の左側面に突っ込んでいることも確認できました。
今回の交通事故現場は、片側4車線道路ですから、Xさんが右折を開始して対向の第1車線まで到達していた以上、明らかに右折を開始した後の衝突と言え、Xさんの「既右折」での10%の修正は主張できると考えられました。
また、Xさんは、対向車線の車の流れが途切れて右折が可能だと判断して右折を開始していますので、Xさんが右折を開始した時点では、相手方は交差点からかなり離れた位置にいました。
それにもかかわらず、交差点内で衝突していますので、相手方はかなりのスピードで進行してきたと考えられました。
ドライブレコーダーがありませんでしたので、相手方の具体的な速度は分かりませんでしたが、それでも時速15km以上の速度違反はあったと考えられ、少なくとも速度違反で10%修正を主張することが考えられました。
また、相手方に衝突されたXさんの車両の左側面が大きく凹んでおり、双方とも車両が全損になったくらい強い衝撃がありましたので、この点からも相手方がかなりの速度で進入してきたことが主張できるのではないかと思われました。
さらに、今回の交通事故現場が、片側4車線道路の見通しの良い道路であったことから、相手方は交差点のだいぶ手前でXさんの車両が右折している様子を確認でき、速度を落とせば衝突を回避することができた状態でしたが、実況見分調書では相手方がXさんの車両を始めて認識した地点が停止線より交差点の内側になっていましたので、前方をよく見ていなかったことが伺われ、よそ見運転などで「著しい過失」も主張できるのではないかと思われました。
交渉の結果~過失割合60:40で解決~
上記のように、別冊判例タイムズ107図の基本過失割合80:20を主張していた保険会社に対して、私たちは、
①Xが右折を開始していたことは明らかであるとして「既右折」で10%修正すべき
②相手方の15km以上の速度違反で10%修正すべき
③相手方の前方不注視が著しいことから「著しい過失」で10%修正すべき
と3点の修正要素を主張しました。
これに対して、当初、相手方保険会社は、
①既右折は認め、10%の修正(70:30)には応じると回答してきました。
②相手方の速度違反は、相手本人が否定しており、ドライブレコーダーなどの証拠もないということで否定してきました。
③著しい過失についても、基本過失割合の20%に含まれる程度の過失に過ぎないとして否定してきました。
このように、もともとの相手方の主張からは10%修正できましたが、Xさんとしては、相手方が速度違反や著しい前方不注視を認めなかった点にどうしても納得できませんでした。
この交通事故現場の交差点は、時差式になっており、対向車線用の信号が赤になった後、右折車用の矢印が点灯します。
Xさんとしては、事故当時、大きな交差点を右折するということで、当然、対向車線には細心の注意をしており、対向車が途切れなければ、右折車用の矢印が出るまで待つつもりでした。
そして、Xさんは、待機場所で待ちながら、助手席に乗っていた奥様と一緒に対向車線を確認して、右折できると判断して右折を開始しました。
そのため、相手方が制限速度程度のスピードでしっかり前方を見て運転していれば、事故を回避できたという思いが強く、裁判も辞さないというお考えでした。
そこで、私たちも裁判を見据えて交渉を続け、特に実況見分調書において、相手方が初めてXさんの車両を認識した地点が停止線を越えてからになっている点が、しっかり前方を見て運転していればあり得ないと強調しました。
そうしたところ、相手方保険会社も著しい過失による10%の修正は認め、60:40であれば応じると回答してきました(相手方本人がどうしても速度違反は認めたくないと言っているとのことで速度違反での修正には応じませんでした。)。
Xさんとしては、相手方の速度違反も認めさせたいという思いがありましたが、この点についてはドライブレコーダーなどの証拠がなく、裁判でも認められるか微妙であったことと、当初の80:20から20%修正できたことに一応の納得感が得られたことで、この60:40で示談に応じることにしました。
まとめ
今回は、一般的に加害側とされる右直事故の右折車側からご依頼を受け、過失割合を修正できた事例をご紹介しました。
今回のXさんのように、ご自身の保険会社の担当者が、過失が大きい側だとなかなか親身になって交渉してくれないというご相談をお受けすることは多いように思います。
加害側の場合、弁護士費用特約が使用できないと費用倒れになってしまうことが多いですが、弁護士費用特約があれば、当事務所でもご依頼をお受けすることが可能です。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。
全国各地からご相談いただいております。
また、他の過失割合を修正できた交通事故事例もご紹介しておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
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投稿者プロフィール
法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)