高額な婚姻費用を獲得できた事例

2024年1月2日

こんにちは、優誠法律事務所です。

以前、別居した際には生活費として婚姻費用の請求ができるという記事を書きました。

別居する際に注意しなければならないことは? | 優誠法律事務所ブログ (yuseilaw.jp)

その中でも記載しましたが、婚姻費用の金額は、基本的に裁判所の公表する算定表を参照して決定します。

しかし、収入が高額で算定表の幅を超えるような場合は算定表が使えませんし、住宅ローンを支払っているような場合も別途考慮が必要です。

今回は、弊所で扱った事例の中で、以上のような事情のもと、高額な婚姻費用が認容された事例についてご紹介いたします。

事案の概要

ご相談者のA子さんは女性で、結婚後はほとんどの期間を専業主婦として過ごしてきました。お子さんは2人いらっしゃって、1人は社会人として独立し、もう1人は大学生という状況でした。ご主人であるB男さんは、一般に高給取りとされる職業についておられました。ご家族で一軒家に住み、B男さんが住宅ローンを支払っていました。

ところがある時、ご主人のB男さんに不貞の疑いが持ち上がりました。それについてB男さんから適切な説明がなかったことから、家庭内でトラブルとなり、以後、B男さんが家を出る形で別居が始まりました。別居時のB男さんの年収は給与所得で2500万円を超え、A子さんは大学生のお子さんと二人での生活をはじめました。

このような状況で、B男さんからA子さんに対して離婚調停の申立てがあり、A子さんから弊所にご相談がありました。

ご相談の段階では、B男さんから毎月の決まった生活費の支払いはなかったので、まずはこちらからも婚姻費用の請求をしましょうという話をしました。

早速調停を申し立てましたが、主張金額の開きが大きく、すぐに審判に移行することになりました。

(なお、B男さんからの離婚調停も不成立となっています。)

審判での争点

婚姻費用審判での争点は、

①A子さんの収入をどう捉えるか

②B男さんの収入をどう捉えるか

③別居後もB男さんが払っている住宅ローンを婚姻費用から差し引くか

の大きく3つでした。

この3つの点につき争いがあったために、こちら(A子さん側)の主張する婚姻費用は月額59万円、B男さんが主張する婚姻費用は月額12万円とかなりの開きがありました。

争点①A子さんの収入をどう捉えるか

争点①については、A子さんは実際には働いていないわけですが、現時点で監護しているのは大学生のお子さん1人のみであり十分稼働できるのだから、その前提で婚姻費用を算定すべき、との主張がB男さん側からなされました。

このような主張を潜在的稼働能力の主張と言います。

具体的には、B男さん側からは、A子さんには年収130万円ほどの潜在的稼働能力があるとの主張がありました。

この数字も実務上よく見かける数字ではあるのですが、こちらからは、A子さんはご両親等の介護を行っており、継続的に通院もしている状況であったので、いきなり就業は難しいとの主張をしました。

こちらの主張に対してもB男さん側から反論がありましたが、最終的な裁判所の判断は、A子さんの潜在的稼働能力を80万円とするというものでした。

争点②B男さんの収入をどう捉えるか

争点②については、B男さん側からは、婚姻費用算定表上の上限は義務者の年収2000万円であるから、今回もその金額をB男さんの年収として婚姻費用を算定すべき、との主張がなされました。

これはどういうことかというと、婚姻費用の額は、通常、養育費と同じく、夫婦双方の収入とお子さんの人数、年齢を基準に、裁判所の公表する算定表平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所 (courts.go.jp)を参照して決定されます。

しかし、算定表を実際にご覧いただければお分かりになると思いますが、算定表では、給与所得者で年収2000万円、自営業者で年間所得1567万円を超える高額な年収があるケースについては、記載がないので算定することができません

B男さんには2500万円を超える収入がありましたので、この場合に婚姻費用をどのように計算するべきか、というのがここの争点です。

実は、B男さんの考え方を採用した審判例もありますし、特に婚姻費用ではなく養育費の場合は、年収2000万円が上限とされることが多いです。それは、子どもの養育費は、親の収入が増加すれば際限なく増えていくような性質のものではないためです。

しかし、今回は養育費ではなく婚姻費用の問題です。また、B男さんの収入が2000万円を少し超える程度なら2000万円を上限としてもいいかもしれませんが、B男さんの収入は2000万円を大きく超えるものでした。したがって、こちらからは、2000万円ではなく、実際のB男さんの年収を基準に婚姻費用を算定すべき、と主張しました。

年収2000万円を超える場合の婚姻費用の算定方法にはいくつかありますが、今回は、「基礎収入割合」を変更する方法での計算方法を主張しました。

(細かい計算方法については割愛しますが、ほかにも総収入から控除する各費目の額を修正するなどの方法があります。)

この争点は、具体的な婚姻費用の金額に大きな影響を与える部分でした。

そのため、主張の応酬がありましたが、最終的に裁判所には当方の主張を全面的に採用してもらうことができました

争点③別居後もB男さんが払っている住宅ローンを婚姻費用から差し引くか

争点③については、B男さん側からは、別居後もB男さんが支払っている住宅ローンは現在A子さんが住んでいる住居についてのものであるから、住宅ローンの金額を毎月の婚姻費用から差し引くべき、との主張がなされました。

これもよく争点になる部分です。B男さんとしては、婚姻費用には住居費が含まれているのであり、それに加えてさらに住宅ローンまで負担するのはおかしい、というわけです。

確かにそういう面もあるのですが、こちらからは、別居は不貞疑惑とそれに続くトラブルから始まったものでその原因はB男さんにあること、住宅ローンはB男さんの資産形成のための支払いであること、A子さんには収入がないのに対してB男さんには十分な収入があり住宅ローンを負担させるとの結論が不当ではないことなどを主張しました。

この争点も、B男さんの主張が認められてしまうと毎月の婚姻費用から住宅ローンと同額が差し引かれてしまうので、結論に大きな影響をもつものでした。

特に、別居開始のきっかけを作ったのはどちらか、という点については、激しい主張立証の応酬となりました。

最終的に、裁判所は、B男さんに不貞があった否かについては明確に認定はしませんでしたが、少なくとも別居のきっかけを作ったのはB男さんであると認定しました。

結果、この争点についても当方の主張が全面的に認められました

裁判所の結論

各争点について以上のとおり認められた結果として、裁判所からは、算定表の上限42万円を大きく超える月額52万円の婚姻費用の支払いが認められました

特に別居開始の経緯の部分の立証活動は大変でしたが、A子さんにも大変喜んでいただき、苦労した甲斐のある結果となりました。

まとめ

この記事をご覧の皆様の中には、別居後の生活費についてお悩みの方もおられると思います。

特に、お相手の収入が2000万円を超えるような場合は、裁判所の公表する算定表で解決することができず、どうすればいいのかわからないという方もおられるかもしれません。

また、婚姻費用の算定に当たって、住宅ローンをどうすればいいのかお悩みの方もおられると思います。

このような、単に算定表を当てはめるだけでは解決しない事案の場合は、各争点について適切な主張立証を行う必要があり、弁護士に相談や依頼をする必要性が特に高いと言えます。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
離婚や不倫に関するトラブルを多く担当してきましたので、皆様のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)