離婚・婚姻費用調停で大学の学費と財産分与が争点となった事例

こんにちは、港区赤坂見附駅徒歩5分の優誠法律事務所です。

今回は、離婚・婚姻費用の調停において、お子様の大学の学費や財産分与が問題になった事例についてご紹介いたします。

大学の学費は、通常の婚姻費用や養育費の算定表では考慮されておらず、離婚時の養育費の合意でも、子どもが大学に進学する場合にはその費用負担について別途協議するなどと取り決めることが多いですが、近年では大学進学率も上がっており、子どもが実際に進学する場面になって争いになることもあります。

このように、実務上、頻繁に生じる争点にも関わらず、形式的な考え方だけでは解決が困難な部分ですので、今回の事例をぜひご参考にしていただければと思います。

事案の概要~お子様の大学の学費と別居のために購入したマンションの取り扱いが争点~

ご相談者Aさん(妻)は、ご結婚後お子様2人に恵まれましたが、長年ご主人Bさんのモラハラに耐えてきました。

しかし、Aさんは、お子様のお一人は就職、お一人は私立大学に入学したことで離婚を決意しました。

そして、別居の準備を進め、Aさんの親御さんの援助やローンを組んでマンションを購入し、別居を開始しました。

その上で、離婚協議が進まないとのことで、離婚調停の依頼を希望されて当事務所の弁護士がご相談をお受けしました。

お話しを伺ったところ、別居後の生活費(婚姻費用)についての取り決めがなされていなかったので、離婚とともに婚姻費用分担請求の調停を申し立て、調停が開始されました。

そして、本件の特徴的な争点は、以下の2点でした。

① 婚姻費用(離婚前)や養育費(離婚後)における、お子様の大学学費の取り扱い

② 財産分与において、Aさんが別居のために購入したマンションをどう扱うか

婚姻費用や養育費における大学の学費の取り扱い

算定表には大学の学費は反映されていない

婚姻費用や養育費については、通常、裁判所の公表する算定表(平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所 (courts.go.jp)を参照して決定します。

ところが、この算定表は、公立中学・公立高校の教育費は考慮して作成されていますが、大学の学費について反映されたものではありません。

そのため、今回のケースでは、算定表から算出される金額に加えて、お子様の大学の学費の負担をBさんに分担させられるか、分担させられるのであればその額はいくらか、という点が争点になりました。

なお、小学校や中学校、高校でも、私立の場合は同様の点が争点になります。

婚姻費用や養育費で大学の学費を請求できるか?

まず、そもそも大学の学費を請求できるかという点が問題になります。

この点については、ある程度収入があって、親が大学を卒業しているような家庭であれば請求できると判断されるケースが多いです。

本件でも、Bさんには1000万円程度の年収があり、AさんもBさんも大学を卒業されていたため、大学の学費を請求できること自体はすんなり認めてもらえました。

大学の学費の分担対象額の算出方法

次に、具体的に金額がいくらになるか、ということが問題になります。

まず、分担対象額がいくらになるかという点ですが、裁判所の公表する算定表で考慮されている教育費(公立高校相当分)は、年額約26万円とされています。

ですので、実際に生じる学費を大学からの説明書面や請求書等から立証し、その金額から算定表で考慮済みとされる約26万円を差し引いた金額を分担対象とすることが多いです。

ただし、この約26万円という教育費は、世帯収入約762万円の家庭を前提としており、世帯収入が762万円を超えるのであれば、それに伴って算定表で考慮済みの教育費も26万円より大きくなる(=実際の学費から控除される金額が26万円よりも大きくなる)ことになります。

本件では、実際に生じる学費等が年額約170万円であり、世帯年収に対する算定表で考慮済みの教育費は約44万円と算出されましたので、その差額の約126万円が分担対象額であると主張しました。

婚姻費用・養育費における学費の分担対象額の分担方法(夫にどのくらい請求できるか?)

次に、この分担対象額約126万円のうち、いくらをAさんが負担し、いくらをBさんに請求できるかということが問題になります。

この部分については考え方がいくつかあり、                                                   

・婚姻費用(離婚前)の場合も養育費(離婚後)の場合も、双方の基礎収入比で按分する

婚姻費用の場合は折半とし、養育費の場合は基礎収入で按分する

のいずれかの考え方をとることが多いです。

特に後者の考え方は、元裁判官の方の著書で紹介されていることもあって、近時支配的になりつつあると思われます。

ただ、私見ですが、例えば妻側に収入がないか極端に少なく、別居が主に夫の責任のもとに始まっているようなケースでは、婚姻費用の場合でも折半ではなく基礎収入比で按分する方が適切な場合も多いように思います。

本件では、婚姻費用でも養育費でも収入比で按分とした方がAさんの受け取れる金額は大きかったものの、Bさん側からは、想定どおりですが婚姻費用の場合は折半とすべきだとの反論がなされました。

当方としては、Bさんのモラハラにより別居が始まったと認識していますので、婚姻費用の場合も基礎収入比で按分すべきとの主張にこだわることも考えましたが、離婚を早期に成立させることを優先したこと、離婚が早期に成立すれば婚姻費用額が少ないとしても影響は小さいこと、婚姻費用にこだわるより後記の財産分与についてあちらの譲歩を引き出したかったことなどから、婚姻費用では折半とし、養育費では基礎収入で按分するという考えで合意しました。

以上から、算定表で算出された金額に加えて、婚姻費用では月額約5万5000円、養育費では月額約8万5000円を加算することができました。

財産分与において、別居のために購入したマンションをどう取り扱うか?

財産分与では、一般的には別居開始の日を基準日として、基準日時点の夫婦双方の財産を財産分与の対象として扱います。

今回、Aさんは別居のためにマンションを購入しましたが、購入は別居前になされていました。

そこで、Bさん側からは、このマンションもAさんの財産として財産分与の対象とすべきだ、との主張がなされました。

しかし、このマンションは、Aさんが結婚前から持っていた預金やこれをもとに購入した株式を解約して得た資金や、Aさんのご両親からの援助を頭金にし、残りはローンを組んで購入したものでした。

結婚前から有していた財産やご両親から贈与を受けた財産は、いわゆる特有財産とされ、財産分与の対象となりません。

したがって、当方からは、購入したマンションはAさんの特有財産を原資としたもので、財産分与の対象とならない、と反論しました。

ただ、ご結婚から20年以上経っていたため、結婚前から持っていた預金やこれをもとに購入した株式を解約して得た資金を購入原資とした、という点については完全に立証ができる状況ではありませんでした。

しかし、ある程度説得的な説明が可能であった点と、先に説明した婚姻費用での学費の取り扱いについて譲歩したことで、マンションについては財産分与の対象としないという合意をすることができました。

本件の合意内容

以上のとおり、大学の学費については婚姻費用と養育費それぞれでBさんに負担してもらうことができ、別居前に購入したマンションについては財産分与の対象としないという内容で離婚調停と婚姻費用分担請求調停を成立させることができました。

学費を全てAさんが負担しなければならないとすると生活が立ち行くか不安があり、マンションを財産分与の対象とすると、財産分与としてAさんがBさんから受け取ることのできる金銭が大幅に減額されてしまいますので、上記の合意についてAさんには大変喜んでいただけました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

大学や私立学校の学費については実務上争点となることが多い一方、算定表だけからは適切な解決が難しい部分ですので、参考になれば幸いです。

また、財産分与についても、特有財産やそれを基にした財産がある場合は、しっかり主張することで、不当に財産分与額を減額されたり増額されたりということを防ぐことができます。

これらの点については、一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

優誠法律事務所では離婚の初回相談は1時間無料ですので、お気軽にご連絡ください。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

弁護士栗田道匡の写真
 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
離婚や不倫に関するトラブルを多く担当してきましたので、皆様のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)