肉体関係の証拠がない…離婚や慰謝料請求は可能?

2024年1月8日

離婚案件を扱っていると、「配偶者が不倫していると思われるが、肉体関係の確たる証拠がない」というケースに多く遭遇します。

また、近時では、既婚者が配偶者以外の異性と交際するものの肉体関係はもたないという「プラトニック不倫」という概念まであるようです。

これらの事例では、「肉体関係の証拠がない、もしくは弱い」という共通点がありますが、それでも離婚慰謝料請求はできるのでしょうか。

以下、ご説明いたします。

なお、肉体関係の証拠にどのようなものがあるか、どのように収集すべきか、という点については、以下の記事をご参照ください。

不倫かも…証拠の種類について解説!

不倫の証拠集めで注意すべきポイントを解説!

肉体関係の証拠がありそうな場合には、まずはこれを確保することが重要になります。

慰謝料請求について

不倫の場合に慰謝料を請求できる根拠は、民法709条710条の不法行為責任にあります。

第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

肉体関係を伴う不倫の場合は、この規定によって慰謝料の請求を行うことができます。

これは、配偶者以外の異性との肉体関係が、配偶者の貞操権や婚姻共同生活の平和の維持という「権利又は法律上保護される利益」を侵害するため、と説明されることが多いです。

では、肉体関係の立証ができない場合、あるいはプラトニック不倫の場合はどうでしょうか。

さきほどの説明を前提とすると、たとえ肉体関係がないとしても、「権利又は法律上保護される利益」を侵害するのであれば、慰謝料を請求することができそうですね。

特に、「婚姻共同生活の平和の維持」という利益は、肉体関係がなくとも侵害されることがあり得ます。

裁判例でも、肉体関係がない(立証できない)場合でも、慰謝料請求を認めているものがあります。

こういった案件で良く参照されていると思われる裁判例として、東京地裁平成17年11月15日判決があります。

この判決は、元夫である原告が、元妻であるAと被告Y1の不貞関係を理由として、被告Y1に慰謝料を請求したケースです。

裁判所は、「被告Y1は,Aと肉体関係を結んだとまでは認められない」としました。

しかし、被告Y1が、「互いに結婚することを希望してAと交際したうえ,周囲の説得を排して,Aとともに,原告に対し,Aと結婚させてほしい旨懇願し続け,その結果,原告とAとは別居し,まもなく原告とAが離婚するに至ったものと認められるから,被告Y1のこのような行為は,原告の婚姻生活を破壊したものとして違法の評価を免れず,不法行為を構成するものというべき」と述べ、結論として慰謝料70万円の支払いを認めています。

被告Y1からは、肉体関係がない以上不法行為は成立しないとの主張も当然あったようですが、これに対して裁判所は、「婚姻関係にある配偶者と第三者との関わり合いが不法行為となるか否かは,一方配偶者の他方配偶者に対する守操請求権の保護というよりも,婚姻共同生活の平和の維持によってもたらされる配偶者の人格的利益を保護するという見地から検討されるべきであり,第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破壊したと評価されれば違法たり得るのであって,第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえないと解するのが相当」と判断しています。

上記の東京地裁の裁判例は、妻の不倫相手が夫に対して妻と結婚させてほしいと懇願し続けたという点で、不倫相手側の積極的な行動がある事案ですが、他の判決では、肉体関係がないだけでなく、不倫相手側に積極的な行動がないと思われる事案についても、44万円の支払いを認める判決が出ている物もあります。

「プラトニック不倫」でも賠償命令…肉体関係「回避の努力」認めず一蹴の判決理由(1/4ページ) – 産経ニュース (sankei.com)

以上のとおり、肉体関係の証拠がない不倫やプラトニック不倫の場合であっても、婚姻共同生活の平和の維持という「権利又は法律上保護される利益」を侵害する場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。

ただし、金額としては肉体関係の証拠がある場合と比べると、低額になるケースがほとんどです。

離婚について

離婚したい理由が何であれ、協議や調停は夫婦双方の合意を目指す手続ですので、双方が離婚に合意すれば離婚できます

他方で、裁判となると、民法770条の定める法定離婚事由がなければ、判決で離婚することはできません。

民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

ここでいう1号の「不貞」と言えれば離婚が認められるのですが、残念ながら肉体関係の立証ができなければ、「不貞」ということはできません

ただし、1号の「不貞」に当たらなくても、5号の「婚姻を継続し難い大な事由」に該当し、離婚が認められることはありえます

例えば、プラトニック不倫が原因で別居を開始して一定期間が経過しているような場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するとして、離婚が認められる可能性が十分あると思われます。

まとめ

以上、肉体関係の証拠がない不倫や、プラトニック不倫の場合の慰謝料請求や離婚についてご説明しました。

具体的な結論は個々の事案によるものですが、肉体関係がないというだけで諦めてしまう必要はありません。

「このようなケースではどうか?」等疑問点がありましたら、私たち優誠法律事務所にぜひご相談ください。

優誠法律事務所では、離婚の初回相談は1時間無料ですので、お気軽にご連絡ください。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
離婚や不倫に関するトラブルを多く担当してきましたので、皆様のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画