別居後に転職・減収があった場合の婚姻費用

2024年10月4日

こんにちは、渋谷区代々木駅徒歩3分の優誠法律事務所です。

今回は、夫婦別居後に妻側が転職したことにより収入が減少した場合の婚姻費用の審判についての解決事例をご紹介します。

今回はご依頼者様が妻側でしたが、本記事では、夫側の立場から見たポイントも説明します。

婚姻費用を支払う側からすると、高額な婚姻費用が確定してしまうと、早期に離婚を成立させて婚姻費用の支払いを終わらせたいとの考慮から離婚条件が不利になることを飲まざるを得ない状況になりかねません。

逆に、婚姻費用を受け取る側としては、できるだけ婚姻費用を高額に確定させることで、離婚条件について相手の譲歩を引き出す材料が増えることになります。

このように離婚の事案では、婚姻費用に関する争点が重要になるケースも多いですから、ぜひ参考にしていただければと思います。

事案の概要~別居後に収入が半減~

ご相談者A子さん(妻)は、ご結婚後お子様2人に恵まれ、ご自身も正社員として働き、年収400万円程度を得ていました。

他方で、ご主人であるB男さんからはモラハラを受けていました。

A子さんとB男さんは、夫婦間の争いがお子さんにも悪影響であると考えたことや、A子さんがモラハラに耐え切れなくなったことなどから別居を開始しました。

しかし、別居直前から小学生のお子さんが登校できない日が頻繁に生じるようになりました。

別居後は、お子さんの様子が多少落ち着いたものの、それでも登校できない日は多くありました。

そのため、A子さんは自宅でお子さんと過ごす時間を確保するために正社員の仕事を退職し、短時間の勤務ができる仕事に転職しましたが、それに伴って年収が200万円程度に減少しました。

A子さんは、ご夫婦の間で婚姻費用の取り決めがなかったことから、毎月の生活費を確保したいとのことで当事務所にご相談に来られました。

本件の争点

私たちは、ご依頼を受けた後、速やかに婚姻費用分担調停を申し立てましたが、調停でも話し合いでの解決は困難でした。

婚姻費用の調停の手続きについて少し説明させていただくと、調停はあくまで両当事者の合意を目指す手続きですので、裁判所の働きかけによっても両者の歩み寄りができない場合は、調停は不成立として終了になります。

婚姻費用の場合は、調停が不成立となった場合、自動的に審判手続きに移行し、裁判所が証拠や主張を吟味して、最終的な判断(これを「審判」といいます。)を下すことになります。

この点は離婚の調停とは異なるところです。

離婚の調停の場合は、不成立となっても自動的に審判には移行せず、別途離婚を求める裁判を提起する必要があります。

A子さんの場合も、両者の歩み寄りは難しく、調停は不成立となりましたので、審判手続きに移行しました。

審判での争点は、「A子さんの収入をいくらと評価するか」という点です。

婚姻費用は、ご夫婦双方の収入を前提に、裁判所の公表する算定表や計算式に基づき算定することになりますが、双方の収入をいくらに設定するかということで争いになることが非常に多いです。

夫婦双方とも、自身の収入は低く見積もり、相手の収入を高く見積もった方が、自身に有利な結論を導くことができます。

今回は、我々は、当然A子さんの収入は転職後の年収200万円を基準にすべきと主張しましたが、B男さん側は、従前年収400万円を得ていたのだから、年収400万円を得る潜在的稼働能力があり、この金額を基準とすべきと反論してきました。

(潜在的稼働能力については専業主婦の場合にもよく争点になります。こちらの記事「高額な婚姻費用を獲得できた事例」をご覧ください。)

A子さんの年収を200万円とした場合の婚姻費用は月額約16万円、400万円とした場合は月額約14万円と、月額2万円程度の違いが出てきます。

この点については、早期に離婚が成立する見込みがある場合は、離婚と一緒に婚姻費用も清算・解決するとして、妻側として多少の譲歩をすることもあり得ます。

ただ、今回はB男さんが親権を徹底的に争うという姿勢で、離婚が早期に解決する見込みはありませんでした。

そのため、A子さんとしても譲歩せず、婚姻費用についても調停では決着しませんでしたので、審判に移行することになりました。

審判での活動内容と審判の結果

A子さんがかつて年収400万円を得ていたのは事実であり、何の理由もなく年収を200万円にしたとすれば、B男さんの主張が通ってしまう可能性があります。

したがって、A子さん側としては、年収を減らしてでも転職せざるを得なかったことを裁判所にわかってもらう必要があります。

そこで、当方からは、A子さんの陳述書を提出し、お子さんの監護状況や従前の仕事を続けられなかった理由、お子さんを診ている臨床心理士に相談した内容、今の仕事の状況等を説明し、加えて、お子さんの診断書や通院履歴を提出しました。

その結果、裁判所にA子さんの年収を200万円とする当方の主張を認めてもらうことができました。

逆に言うと、今回のケースで、A子さんが転職・減収理由を説明、立証できなければ、B男さんの主張が通っていた可能性は十分あります。

同じく別居後に妻側に転職・減収があった事例で、今回とは異なり当事務所の依頼者が夫であったケースで、妻側が転職理由として体調悪化を主張するのみで、特にその裏付け資料を出さなかったため、妻の転職前の高い収入を基礎に婚姻費用を算定すべきとの審判が下されたこともあります。

特に、妻の転職前の収入がそれほど高額ではない場合や、転職後の収入資料が信用できない場合などは、夫側の主張が認められやすいような印象を受けます。

今回のA子さんのケースでは、月額にして約2万円という金額ですが、有利な内容で婚姻費用を決着させることができました。

これにより、離婚の解決にじっくりと取り組むことができるようになりました。

まとめ

今回は、別居後に妻側の収入が減少した事例で、その減少した収入額を前提に婚姻費用が認められたケースをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

婚姻費用の金額の決定については、お子さんがおられる場合は養育費の前哨戦という側面もあり、審判になる場合は、可能な限りご自身に有利な結論を導きたいところです。

また、離婚がすぐには解決しそうもない場合、婚姻費用についてご自身に有利な結論を確定させることで、離婚問題にじっくり取り組むことができるようになります。

以上のとおり、婚姻費用額の決定については、その後の離婚交渉についても大きな影響を与えることになりますので、一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

優誠法律事務所では離婚の初回相談は1時間無料ですので、お気軽にご連絡ください。

0120-570-670

優誠法律事務所公式HPはこちらから

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

よろしければ、関連記事もご覧ください!

【関連記事】

高額な婚姻費用を獲得できた事例

離婚意思が固まったら・・・

別居する際に注意しなければならないことは?

離婚協議を早期に解決できた事例

高額な財産分与を獲得できた事例

離婚・婚姻費用調停で大学の学費と財産分与が争点となった事例

財産分与の解決事例~住宅ローン債務が残っている自宅がある場合~

養育費の支払いについて連帯保証人をつけることができた事例

投稿者プロフィール

弁護士栗田道匡の写真
 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
離婚や不倫に関するトラブルを多く担当してきましたので、皆様のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)