不貞行為で慰謝料を請求された…注意すべきポイントを解説

2024年6月30日

不貞慰謝料について交渉や裁判を担当していると、「既婚者と肉体関係を持ってしまい、その配偶者から慰謝料を請求されている」、「弁護士から不貞慰謝料を請求する内容証明が届いた」というご相談も多くお受けします。

今回は、不貞慰謝料を請求されてしまった際に、注意すべき点についてご説明します。

無視はしない

まず大前提ですが、不貞相手の配偶者から連絡が来たり、弁護士から内容証明が届いたりした場合に、無視はしないでください。

不貞はなかったということであれば、そうはっきり言っていいですし、不貞があったとしても交渉で解決できたはずのものが無視をすることによって裁判となり、時間もお金も無駄にかかってしまうということもあり得ます。

なお、弁護士からの書面には、よく「14日以内にご連絡ください」等の期限が切られていることがあります。

この期限は相手が一方的に切っているだけなので、無理にこの期間内に結論を出す必要はありません。

ただ、無視していると裁判を起こされることなどがあり得るので、「内容検討中である」程度の返答はしておくべきです。

その間に弁護士へ相談されるとよいでしょう。

軽率な発言はしない

上記のとおり無視はしないで欲しいのですが、かといって軽率に自身の責任を認める発言も避けるべきです。

特に不貞の証拠があまり固くない場合、不貞の言質を取ろうとしてくることがあります。

例えば不貞を認める発言を録音されたりすれば、当然交渉では不利になりますので、注意が必要です。

基本的な交渉に臨む態度としては以上となります。

以下では、金銭請求の内容について見ていきます。

金銭支払義務があるか

不貞慰謝料は、民法上の不法行為(709条、710条)に基づいて請求されます。

したがって、請求を受けた側としては、不法行為が成立するのか、成立するように見えても抗弁として主張できることはないか、という点を検討していくことになります。

そもそも「不貞」か

配偶者のある人と、性交渉やその類似行為があった場合は、「不貞」となります。

当然ですが、肉体関係がなければ慰謝料請求を受ける謂れはありません。

食事やデートのみの場合も、基本的には慰謝料請求の根拠とはならないでしょう。

ここで注意が必要なのは、キスについてです。

よく「キスは不貞行為にはならない」などと言われますが、これは法定離婚事由である「不貞な行為」(民法770条1項1号)に当たらないという意味で、慰謝料の根拠になるかどうかということとは別の話です。

このあたりを混同している議論をときどき見かけます。

キスのみであったとしても、それをきっかけに先方の婚姻関係が破綻してしまったような場合には、慰謝料を支払うというケースはあり得ます。

ただし、金額はかなり小さくなるでしょう。

こちらに故意又は過失があるか

不法行為が成立するためには、「故意又は過失」が必要とされています(民法709条)。

肉体関係を持った相手方が既婚であることを知らず、知らなかったことについて不注意もない、という場合には、この故意・過失がなく、不法行為が成立しないということになります。

裁判例では、例えば独身者が参加することが想定されているお見合いパーティで知り合い、その後も独身としてふるまっていた相手方との不貞について、故意・過失がないと判断されています。

もっとも、故意・過失を否定するのは、なかなか難しいのが実情です。

既婚であることを少しでも疑わせる事情があれば、いわゆる「未必の故意」が認められるでしょうし、故意がないとしても過失までなかったと言えるケースはかなり少なくなります。

ですが、相手方に独身者と騙されていたようなケースでは過失まで否定できるケースもありますし、否定できずとも金額面で有利に交渉できることもあります。

まずは弁護士に相談されることをお勧めします。

時効期間が経過していないか

不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年または不法行為の時から20年経過すると、時効により消滅します(民法724条)。

不貞慰謝料の場合、慰謝料請求者が不貞を知ってから3年が経過している場合は、時効により慰謝料請求権が消滅している可能性があります。

ただし、時効により慰謝料請求権が消滅していたとしても、責任を認めるような言質を取られてしまうと、時効の主張ができなくなる恐れもあります。

時効期間が経過しているか微妙な事案では、先方への回答内容を吟味することが必要です。

破綻の抗弁

「破綻の抗弁」とは、不貞前から夫婦の関係が破綻していたので、不貞によって害されるはずの婚姻共同生活の平和という権利利益が存在せず、したがって不法行為は成立しない、というものです。

不貞慰謝料の裁判では頻出の抗弁になります。

ただ、裁判所は夫婦関係の破綻を簡単には認めません。

一般論としては相手夫婦の婚姻継続の意思の有無や程度等を考慮すると解説されることが多いですが、肌感覚としては少なくとも相手夫婦が別居している場合でなければ、破綻を認めさせることは困難だと感じます。

とはいっても他の事情にもよりますので、相手夫婦の破綻が疑われるケースでは、弁護士に相談されることをお勧めします。

金額は妥当か

多くの場合、不貞慰謝料の額は数十万から300万円程度となることが多いです。

その中で、請求を受けた額が妥当なものか、対案を提案するならどのような金額を提案するかを検討します。

離婚の有無

慰謝料額を決定する要素には不貞の回数や期間、相手方の婚姻期間や子の有無、前述の既婚であることについてのこちらの認識等が関係してきますが、相手夫婦の離婚(あるいはそれに向けた別居)の有無が最も金額に与える影響が大きいと言えます。

概ね、離婚するケースでは100万円以上、離婚しない場合は100万円以下というのが目安になります。

もちろん目安ですのでこの範囲に収まらないケースもありますが、参考にしていただければと思います。

求償権の処理

肉体関係を持った相手が既婚だったとして、その配偶者に慰謝料を支払った場合、金額の一部を不貞相手に請求できます。

これを求償権と言います。

相手夫婦が離婚しない場合には、求償権を行使されると相手夫婦も損失を受けることになります。

したがって、示談の際に取り交す書面中で、求償権を放棄すると明記する代わりに、慰謝料を減額するという交渉を行うことがあります。

ただし、相手夫婦が離婚を選択した場合は効果がないので注意が必要です。

支払方法等

交渉が進み、概ねの着地点が見えてきた場合は、支払方法等についても気を配る必要があります。

分割払い

慰謝料額の一括での支払いが難しい場合には、分割払いの提案を行う必要があります。

慰謝料を請求する側は、分割払いは途中で支払いが止まってしまう可能性があるため、できるなら避けたいと考えています。

したがって、こちらとしては、分割払いを受け入れた方が得だと思わせる必要があります

例えば、最初に大きな金額を設定しておき、一定額まで支払った場合に残額を免除する、という条項を示談書に入れる等の方法があります。

しっかりとした示談書を作成する

不貞慰謝料に限りませんが、基本的に、お金を支払う側からすると、しっかりと示談書を交わした上で支払いを行うことが大切です。

示談書の取り交しのないまま支払ってしまうと、後日追加で請求を受けるということがあり得ます。

他にも、分割払いの条項もきちんと作成しておかないと、知らない間に債務不履行となってしまい全額を請求される、といった事態にもなりかねません。

弊所では、示談書の作成のみ弁護士に依頼する(5万5000円~)ということも可能ですので、ぜひ検討いただければと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

弁護士が実際に検討していることはもう少し複雑になりますが、概ね上記の点に注意しながら交渉を行っています。

交渉を行っていく中で、ご不明点、ご不安点が出てきた場合には、私たち優誠法律事務所にご相談いただければ大変うれしいです。

優誠法律事務所では、離婚の初回相談は1時間無料ですので、お気軽にご連絡ください。

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投稿者プロフィール

栗田道匡 弁護士
2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
離婚や不倫に関するトラブルを多く担当してきましたので、皆様のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。

■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)