夫婦喧嘩がまさかの逮捕に!? ~男女トラブルと刑事事件~

「ちょっとした夫婦喧嘩だったのに、まさか逮捕されるなんて…」

そんな予期せぬ事態に直面し、途方に暮れている方は少なくありません。

夫婦間、あるいは男女間の感情的なもつれが、DV防止法や刑法に抵触し、「刑事事件」として扱われるケースが増えています。

当事務所では、こうした男女間のトラブルが原因で刑事事件に発展してしまった方々からのご相談を多くお受けしています。

本記事では、夫婦喧嘩や男女トラブルが刑事事件に発展してしまった場合の具体的な流れ、弁護活動のポイント、そして実際に当事務所が解決に導いた事例をご紹介します。

もし今、あなたやあなたの大切な人が同じような状況に直面しているなら、この記事が少しでもお力になれることを願っています。

身近な男女トラブルがなぜ刑事事件になるのか?

「まさか夫婦喧嘩で警察が来るなんて」「手を上げたわけじゃないのに、なんで逮捕なの?」

男女間のトラブル、特に夫婦喧嘩は、その当事者にとっては「よくあること」かもしれません。

しかし、一歩間違えれば、それが「傷害罪」「暴行罪」「脅迫罪」といった刑事事件に発展する可能性があることをご存じでしょうか。

例えば、

  • 暴れる相手方を押さえつけたら「暴行罪」とみなされた
  • 相手の腕や首を掴んだら、怪我の診断書が出され「傷害罪」とされた
  • 感情的に罵倒してしまったら「脅迫罪」として通報された
  • 自宅で口論になった末、相手が「DVだ」と通報した

といったケースは少なくありません。

特に、DV(ドメスティック・バイオレンス)に対する社会の意識が高まっている昨今、ささいな身体的接触や言葉のやり取りであっても、被害者側が恐怖を感じ、警察に通報するケースが増えています。

その際、被害を受けた当事者は、その場の感情や恐怖から警察に助けを求め、言われるがままに被害届を提出してしまうことがあります。

しかし、被害届が受理されると、警察は捜査を開始し、場合によっては加害者側の逮捕にまで至ります。

この時、被害者側は「ただ相手に反省してほしかっただけ」「もう二度と暴力は振るわないでほしかっただけ」という気持ちであっても、一度刑事事件として立件されると、その後のプロセスは被害者の意思だけではコントロールできなくなることがあります。

「まさか夫(妻)が逮捕されるとは」「子供もいるのに、どうすれば…」と、後になって後悔するケースも珍しくありません。

私たちは、このような予期せぬ形で刑事事件の当事者となってしまった方々に対し、法的な専門知識と豊富な経験に基づき、最善の弁護活動を提供しています。

刑事事件の流れ(被疑者が逮捕された場合)

もし、あなたが男女トラブルを原因として逮捕されてしまった場合、日本の刑事司法では以下のような流れで手続きが進みます。

この流れを知ることは、今後の見通しを立て、適切な対応を取る上で非常に重要です。

逮捕(身柄拘束の始まり)

警察官に連行され、警察署で身柄を拘束されます。

この段階から、外部との連絡が制限されることがほとんどです。

逮捕後、警察は被疑者から取り調べを行い、事件の状況を詳しく聴取します。

この逮捕から48時間以内に、警察は被疑者の身柄を検察官に送致(送ること)しなければなりません。

送致・検察官による取り調べ

警察から送致を受けた検察官は、さらに被疑者を取り調べます。

検察官は、送致を受けてから24時間以内に、被疑者を引き続き身柄拘束する必要があると判断した場合に、裁判官に対して勾留(こうりゅう)請求を行います。

勾留請求と勾留質問(裁判官の判断)

検察官が勾留請求を行うと、被疑者は裁判所に連れて行かれ、裁判官による勾留質問を受けます。

この勾留質問の場で、被疑者は自身の意見を述べることができます。

裁判官は、被疑者の逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれの有無、罪の重さなどを総合的に判断し、勾留を決定するか否かを判断します。

勾留(最大20日間の身柄拘束)

裁判官が勾留を認めた場合、被疑者の身柄は原則として10日間、警察署の留置場や拘置所で拘束されます。

この期間中に、警察や検察官による詳細な取り調べが続けられます。

検察官は、さらに捜査が必要だと判断した場合、裁判官に勾留延長を請求し、これが認められるとさらに最大10日間、勾留期間が延長される可能性があります。

つまり、逮捕されてから勾留が延長された場合、最大で23日間(逮捕48時間+検察官の24時間+勾留10日間+勾留延長10日間)もの間、身柄を拘束される可能性があるのです。

この間、仕事や学校に行くことはできず、家族とも自由に面会できません。

精神的にも肉体的にも非常に厳しい状況に置かれることになります。

起訴・不起訴の判断

勾留期間(最長20日間)が満了するまでに、検察官は、被疑者を起訴(刑事裁判にかけること)するか、不起訴にするかを判断します。

●起訴
検察官が「有罪に持ち込める」と判断した場合に行われます。起訴されると、刑事裁判が開かれ、公開の場で審理が行われます。

●不起訴
検察官が「起訴するには証拠が不十分」「起訴するまでもない」と判断した場合に行われます。不起訴になれば、事件はそこで終了し、前科がつくこともありません。

この不起訴処分を獲得することが、弁護士にとって最も重要な目標の一つとなります。

公判(裁判)

起訴された場合、刑事裁判が開かれ、公開の法廷で審理が行われます。

検察官は有罪の立証を行い、弁護人は無罪の主張や情状酌量を求めます。

最終的に裁判官が、有罪か無罪か、どのような刑罰を科すかを決定します。

このように、一度逮捕されてしまうと、その後の手続きは複雑かつ長期にわたる可能性があります。

そのため、逮捕された直後からの弁護士による迅速なサポートが不可欠なのです。

弁護活動のポイント(身体拘束からの解放に向けた主な活動)

逮捕された被疑者にとって、最も切実な願いの一つが「一刻も早く身柄を解放されたい」ということです。

弁護士は、この願いを叶えるため、逮捕直後から以下のような多角的な弁護活動を展開します。

逮捕直後の接見(面会)

弁護士は、逮捕された被疑者が唯一、外部と自由にコミュニケーションを取れる存在です。

逮捕の連絡を受け次第、速やかに警察署へ駆けつけ、被疑者と面会(接見)します。

この接見では、

  • 事件の正確な状況把握: 被疑者から直接、事件の経緯、逮捕時の状況、警察の取り調べ内容などを詳細に聞き取ります。
  • 取り調べに対するアドバイス: 警察の取り調べは、精神的に追い込まれた状態で行われるため、意図しない供述をしてしまうリスクがあります。弁護士は、黙秘権の行使、供述の注意点、誘導尋問への対処法など、具体的なアドバイスを行います。
  • 精神的サポート: 突然の逮捕で混乱し、大きな不安を抱えている被疑者に対し、今後の見通しや弁護方針を説明し、精神的な支えとなります。

この初動の速さと質が、その後の弁護活動の成否を大きく左右します。

勾留阻止に向けた活動

逮捕後、検察官が勾留請求を行うことを阻止することが、早期釈放の重要なポイントです。

弁護士は、勾留請求をしないよう検察官に働きかけたり、勾留請求が行われた場合には裁判官に対し、勾留の必要性がないことを示す意見書を提出したりします。

●意見書の提出
被疑者が逃亡するおそれがないこと(定職がある、家族と同居しているなど)、証拠を隠滅するおそれがないこと(被害者との示談交渉が進んでいる、証拠が既に警察に押収されているなど)を具体的に説明し、勾留決定をしないよう求めます。

●身元引受人の確保
家族や勤務先の上司など、被疑者の身元を保証してくれる人がいることを示すことで、逃亡のおそれが低いことをアピールします。

被害者との示談交渉・被害届の取下げ

男女トラブルが原因の事件では、被害者との示談を成立させることが、身体拘束からの解放、さらには不起訴処分を獲得する上で最も有効な手段の一つです。

①被害者への接触
被疑者本人やその家族が被害者に直接連絡を取ろうとすると、感情的なトラブルが再燃したり、「証拠隠滅」とみなされたりするリスクがあります。弁護士が代理人として被害者に連絡を取り、誠意をもって謝罪の意を伝え、示談交渉を進めます。

②示談内容の交渉
示談金や、今後同様のトラブルを起こさないための具体的な約束(例:接近禁止の誓約、カウンセリングの受講など)について、被害者の心情に配慮しながら交渉を行います。

③被害届の取下げ交渉
示談が成立すれば、被害者から被害届を取り下げてもらうよう交渉します。被害届の取下げは、検察官が不起訴処分を判断する上で非常に重視されます。

④公正な示談書の作成
被害者との間で合意した内容を正確に記した示談書を作成します。

示談が成立し、被害届が取り下げられれば、検察官が「これ以上捜査をする必要がない」「処罰の必要性が低い」と判断し、不起訴処分となる可能性が飛躍的に高まります。

検察官・裁判官への働きかけ

示談の成立や被害届の取下げといった状況変化があれば、弁護士は直ちにその事実を検察官や裁判官に伝え、早期釈放や不起訴処分を強く働きかけます。

被疑者の反省の態度や、再犯防止のための具体的な努力(例:カウンセリングの受講意思)なども積極的に伝えます。

これらの弁護活動は、時間との勝負です。

逮捕から勾留決定までのわずかな期間が、被疑者の人生を大きく左右する重要な局面となります。

事例紹介:夫婦喧嘩で逮捕も、弁護士の迅速な対応で勾留を回避し釈放へ

実際に当事務所が担当し、早期解決に導いた事例をご紹介します。

【罪名】傷害罪(刑法204条)

【事案】
ご依頼者(夫)は、奥様(以下「被害者」)と自宅で激しい口論になっていました。
感情的になった奥様が、ご依頼者の行く手を遮る形で廊下に立ち塞がり、通行を妨害してきました。ご依頼者はその場を通ろうとして、思わず奥様の首のあたりを掴んで体を押してしまいました。
奥様はこれを「首を絞められた」と感じ、その場で110番通報しました。
当日は警察官が臨場し、ご依頼者も事情を説明しましたが、その場では逮捕されずにそのまま職場に向かいました。
しかし、その間に奥様が警察に被害届を提出していたため、翌日、警察が突然ご依頼者の職場まで来て、その場で逮捕されてしまいました。
突然の逮捕に、ご依頼者はもちろん、職場の同僚も大きな動揺を隠せない状況でした。

【弁護活動の開始】

ご依頼者から当事務所に連絡が入ったのは、逮捕された当日でした。

すぐに弁護士が警察署へ接見(面会)に向かいました。

ご依頼者から詳しく事情をお伺いすると、奥様とは喧嘩が絶えず、今回もその延長だったとのこと。

奥様に怪我をさせる意図はなく、まさか逮捕されるとは思っていなかったと、強い後悔の念と不安を滲ませていました。

この事案では、被害者である奥様との示談成立、そして被害届の取下げを最優先事項とし、早期の身柄拘束からの解放を目指す方針を決定しました。

弁護士は、まずご依頼者から奥様の連絡先(電話番号)を伺い、すぐに連絡を試みました。

しかし、何度かけても電話は繋がらず、奥様からの応答はありませんでした。

そこで、ご依頼者の同意を得て、ご依頼者と奥様双方の親族の方々にも協力を仰ぎ、奥様へ連絡を取ってもらいましたが、やはり連絡がつかない状況が続きました。

奥様が感情的になっていること、あるいは警察から「加害者側からの連絡には応じない方が良い」とアドバイスされている可能性も考慮に入れました。

【被害者との接触、示談交渉の成功】

しかし、弁護士は諦めず、翌日も継続して奥様へ連絡を試みました。

すると、ついに電話が繋がり、奥様と直接お話しすることができました。

奥様は、警察から「首にあざもあるから被害届を出した方が良い」と勧められ、言われるがままに診断書と被害届を提出したものの、ご主人が逮捕されることは全く想定していなかったとのことでした。

さらに、お子さんもいらっしゃることから、ご主人が長期にわたって身柄を拘束されることには非常に抵抗があり、むしろ早く出てきてほしいというお気持ちも確認できました。

奥様のご意向を確認できたため、弁護士は速やかに翌朝、奥様のご自宅へ直接伺いました。

そこで、奥様の心情に寄り添いながら、今回の事件について改めて謝罪の意を伝え、今後の関係性やご依頼者の反省の態度などを説明しました。

そして、奥様の意思に基づき、示談書を作成しました。

この示談書には、特段の示談金の支払いはなく(これは奥様のご意向でした)、奥様がご依頼者(夫)を許していること、そして警察に提出した被害届を直ちに取り下げることが明確に記載されました。

奥様からは、ご主人が早く自宅に戻ってきてほしいという強い希望が示され、示談書への署名捺印をいただけました。

【勾留回避と釈放へ】

示談書が完成した後、弁護士はすぐに動き出しました。

完成した示談書を即座に担当検察官宛に提出し、同時に電話で検察官に対し、「被害者との示談が成立し、被害届も取り下げられている。

被害者も勾留を望んでいないため、勾留請求をするのではなく、早期にご被疑者(依頼者)を釈放すべきである」と強く意見を述べました。

検察官も、被害者の明確な意思表示と示談書の存在を重視しました。

その結果、同日中にご依頼者は無事に釈放され、勾留されることなく自宅へ戻ることができました。

逮捕された翌々日の釈放という、非常に迅速な解決となりました。

このケースでは、奥様がご主人の長期の身柄拘束を望んでいなかったこと、そして弁護士が迅速に奥様と連絡を取り、ご意向を汲んだ上で示談を成立させ、検察官に早期釈放を強く働きかけたことが、勾留回避、ひいては早期の身柄解放という最良の結果に繋がりました。

まとめ:一人で悩まず、早期にご相談を

夫婦喧嘩や男女トラブルは、その場の感情的なもつれから、思わぬ形で刑事事件へと発展してしまう可能性があります。

一度警察が介入し、被害届が受理されてしまうと、その後の手続きは複雑化し、ご自身の意思だけではコントロールが難しくなります。

本事例でご紹介したように、たとえ逮捕されてしまったとしても、逮捕直後からの迅速かつ適切な弁護活動によって、身体拘束からの早期解放や、事件の早期解決を実現できる可能性は十分にあります。

特に、被害者との示談交渉は、勾留回避や不起訴処分を獲得する上で非常に重要な手段となります。

しかし、逮捕されて身柄を拘束された状態で、ご自身で被害者と連絡を取り、示談交渉を進めることは事実上不可能です。

また、弁護士を探すこともできません。

そのため、警察沙汰に発展したトラブルがあったときは、すぐに弁護士に相談しておきましょう。

ここで弁護士とつながっていれば、万が一逮捕された時も警察から法律事務所に接見(面会)の要請を連絡してもらうことができます。

重ねて言いますが、刑事事件では迅速な初動対応が何よりも重要です。

男女トラブルが刑事事件に発展しきる前に、迷わず弁護士にご相談ください。

もし刑事事件化してしまったときは、弁護士は、ご依頼者様の代理人として、冷静かつ客観的に状況を判断し、被害者の心情にも配慮しながら、示談交渉や警察・検察への働きかけを行います。

私たちは、突然の事態に直面し、大きな不安を抱えているご依頼者様の声に真摯に耳を傾け、最善の解決を目指して全力でサポートいたします。

「昨日激しい喧嘩をしてしまい、警察を呼ばれてしまった・・・」「この先どうなってしまうのか…」 もし今、あなたがそのようなお気持ちでいらっしゃるなら、どうか一人で抱え込まず、当事務所までお気軽にご連絡ください。

投稿者プロフィール

 牧野孝二郎 弁護士

これまで、離婚・相続・労働・交通事故などの民事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、皆様がお困りになることが多い法律問題について、少しでも分かりやすくお伝えしていきます。
■経歴
2009年03月 法政大学法学部法律学科 卒業
2011年03月 中央大学法科大学院 修了
2011年09月 司法試験合格
2012年12月 最高裁判所司法研修所(千葉地方裁判所所属) 修了
2012年12月 ベリーベスト法律事務所 入所
2020年06月 独立して都内に事務所を開設
2021年03月31日 優誠法律事務所を開設
2025年04月 他事務所への出向を経て優誠法律事務所に復帰
■著書
こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)