財産分与の解決事例~住宅ローン債務が残っている自宅がある場合~

こんにちは、優誠法律事務所です。

今回のテーマは、離婚時に住宅ローン債務が残っている自宅の財産分与です。

一生の買物である住宅は、取得費用が非常に高額であるため、ほとんどの方が住宅ローンを利用しており、離婚の際に住宅ローンが残っている場合は、離婚後の支払についても考えなければなりません。

また、自宅は生活の基盤であるため、子どもの生育環境の変化を望まない父母の一方が、離婚後も引き続き子どもと一緒に自宅で生活することを希望することも多く見受けられます。

このように、住宅ローンが残っている自宅の財産分与にあたっては、住宅ローンの支払や居住の確保という離婚後の事情を踏まえた検討が必要になります。

今回は、当事務所の弁護士が取り扱った事例のうち、(離婚時ではなく)住宅ローン完済後に財産分与として所有権移転する旨の合意をした事例をご紹介いたします。

解決方法としては珍しい事例ですが、一つの選択肢として参考にしていただけますと幸いです。

財産分与の際の自宅の処分方法

婚姻期間中(別居している場合には別居時まで)に夫婦が取得した住宅(不動産)は、その名義にかかわらず、実質的共有財産であるため、財産分与の対象となります。

もっとも、夫婦の一方が、親族から贈与を受けたり相続で取得した場合については、基本的に特有財産となるため、財産分与の対象から除外されます。

財産分与の際に自宅を処分するにあたっては、前提として、

・自宅を売却して売却金を分配するか

・そのまま自宅を維持してどちらか一方が取得するか

について決めておく必要があります。

自宅を売却して売却金を分配する場合は当然ですが、自宅を維持する場合においても、自宅の評価額(時価)を把握しておくことは必須です。

なぜなら、自宅を維持する場合、自宅の評価額(時価)を踏まえて、自宅を取得する夫婦の一方が他方に対して代償金を支払うか否か、代償金を支払う場合は金額をいくらに設定するか等について検討しなければならないためです。

自宅の評価額(時価)を把握する方法は様々です。

例えば、固定資産税評価額により評価額(時価)を把握するという方法があります。

固定資産税評価額は、調査が容易ではあるものの、あくまで固定資産税の算定の基礎となるものであるため低額になる傾向があります。

また、不動産業者に依頼して自宅の査定をしてもらうという方法があります。

もっとも、夫婦の一方が依頼した不動産業者による査定の場合、その査定額が偏っていないかについて争いになることがありますので、双方がそれぞれ不動産業者に査定を依頼して出し合うことが多いです。

さらに、不動産鑑定士に依頼して鑑定してもらうという方法もあります。

不動産鑑定士による不動産評価は客観性・公平性があり、査定額の相当性が担保されているものの、高額な鑑定費用が必要になることが多いです。

住宅ローン債務がある自宅の場合

自宅に住宅ローンが残っている場合、住宅ローンの残高を確認する必要があります。

なぜなら、住宅ローンという債務も財産分与の対象になることから、評価額(時価)から住宅ローンの残高を差し引いた金額を自宅の価値と評価して、財産分与の金額を決めていくことになるためです。

住宅ローンの残高は、ローン債務者本人が金融機関に照会すれば回答してもらえます。

自宅を維持する場合、離婚後も住宅ローンは残りますので、夫婦がそれぞれどのように住宅ローンを負担し続けていくのかについても決めておかなければなりません。

もっとも、この点について夫婦間が合意したとしても、住宅ローンの債権者である金融機関との関係は変わらないことに注意が必要です。

例えば、住宅ローンの債務者が夫である場合、夫婦間で今後は妻が住宅ローンを負担する旨の合意をしたとしても、金融機関との関係では依然として債務者は夫のままです。

金融機関との関係でも債務者を妻に変更するためには、金融機関と交渉して同意を得る必要があります。

事案の概要

今回の依頼者A男さんは、B女さんと結婚した後、長年にわたり同居生活を続けていました。

しかしながら、A男さんは、B女さんからモラハラを受けたり金銭的自由を奪われたりするようになったため、別居生活をすることになりました。

A男さんは、B女さんとの早期離婚を希望しており、離婚交渉について依頼を受けることになりました。

しかしながら、B女さんは離婚自体に消極的であり、離婚交渉では話し合いにならなかったことから、早々に離婚調停を申し立てることにしました。

仮にB女さんが離婚自体に合意したとしても、同居中、A男さんは住宅ローンを利用して自宅を購入しており、離婚調停を申し立てた時点でも住宅ローンは2000万円程度残っていたことから、離婚後の住宅ローンの負担等について決めておかなければなりません。

また、購入した自宅にはB女さんが引き続き住んでいたことから、B女さんからは、自宅を維持して離婚後も自宅に住み続けたい旨の主張がなされる可能性が高かったため、この点についても検討する必要がありました。

調停での話し合い~住宅ローン債務がある自宅について~

想定していたとおり、B女さんからは、離婚するための条件として、自宅を維持して離婚後もB女さんが住むことが提示されましたが、それに加えて、自宅名義をB女さんに移すことも離婚条件として提示されました。

もっとも、残っている住宅ローンについては、B女さんも毎月折半する旨の提案も併せてなされました。

これらの条件では、離婚後、A男さんは自宅に住めない上、自宅の所有権を失うことになるにもかかわらず、住宅ローンを支払い続けなければなりません。

それに加えて、自宅以外の実質的共有財産にめぼしい財産がないため、対価としてA男さんが何らかの財産を受け取ることもできません。

もっとも、B女さんは住宅ローンを毎月折半すると言っていたことから、B女さんとの早期離婚を考えているA男さんとしては、何とか条件を受け入れたいところでした。

その一方で、A男さんとしては、離婚後、本当にB女さんが住宅ローンを毎月折半してくれるのかという点を懸念していました。

というのも、住宅ローンの債権者である金融機関との関係では、離婚後も引き続きA男さんが債務者であるためです。

金融機関との関係で債務者をB女さんに変更するという方法は考えられますが、B女さんの収入状況では、金融機関からの同意は得られない可能性が高い状況でした。

そのため、離婚後、財産分与として自宅をB女さんに分与するのは、住宅ローンが完済された時として、その間にB女さんが住宅ローンの折半を怠った場合は、自宅の財産分与はしないとしたいところでした。

また、この場合、住宅ローンが完済されるまではA男さんが自宅の所有名義を持ちますが、A男さんとしては、その間に所有者として負担する固定資産税はB女さんが折半し、修繕費用・保険料(火災保険・地震保険)・水道光熱費等の諸経費についてはB女さんが全て負担することを希望していました。

したがって、調停手続内で、自宅については次の提案をすることにしました。

⑴ 財産分与として自宅がB女さんに分与されるのは、住宅ローンが完済されたとき。

⑵ 住宅ローンが完済されるまでは、引き続き自宅はA男さんの所有名義となるが、その間、B女さんに本件不動産の占有権限を与えるため、自宅について両者間で賃貸借契約の締結をする。

⑶ B女さんがA男さんに支払う賃料は、前月にA男さんが支払った住宅ローンの金額と、前月にA男さんが支払った固定資産税の金額を合算して2で割った金額とする。

⑷ B女さんが賃料の支払いを怠った場合、住宅ローンが完済されても自宅はB女さんに分与されない。

⑸ 自宅の修繕費用・保険料(火災保険・地震保険)・水道光熱費等の諸経費については、B女さんが全て負担する。

調停の結果~離婚・財産分与の合意成立~

当方の提案内容については調停委員も理解を示し、B女さんを説得してくれました。

その甲斐もあり、B女さんは当方提案を受け入れるに至りました。

その結果、当方提案の内容で離婚調停が成立し、A男さんはB女さんと無事に離婚することができました。

また、住宅ローンの折半を怠った場合は自宅の財産分与はしないという担保もあるため、B女さんによる住宅ローンの折半が滞らないことについても安心です。

A男さんとしても、この結果には大変満足された様子であり、納得した解決ができたようでした。

まとめ

今回ご紹介した事例のように、住宅ローン債務が残っている自宅がある場合の財産分与は非常に複雑であり、多方面にわたる事情を考慮しなければ合意に至ることは難しいでしょう。

今回ご紹介した事例のように、離婚調停において、住宅ローンが完済されるまでは分与しないとしたり、元夫婦間で賃貸借契約を締結したりすることは珍しいですが、夫婦それぞれの要望を調整するためには、このような技巧的な内容にすることが必要なケースもあります。

財産分与についてご相談されたいということでしたら、依頼された場合の見通し等も含めて、お話しさせていただければと存じます。

優誠法律事務所では、婚姻費用を含めた離婚の初回相談は1時間無料ですので、お気軽にご連絡ください。

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投稿者プロフィール

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 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」