将来治療費を示談交渉で認めさせた事例~歯牙障害~

皆様、こんにちは!

優誠法律事務所です。

今回は、在宅介護サービスの利用中に浴室で発生した事故により、利用者が顔を床に強く打ち付けて上顎を骨折し、歯を3本喪失してしまった事案で、歯の欠損(歯牙障害)について「将来治療費」が認められた事例をご紹介いたします。

将来治療費とは、症状が固定した後の治療費をいいます。

一般的に、損害賠償で認められる治療費は、症状固定までの期間とされており、将来治療費は賠償範囲外とされて認められないことが多く、損害賠償保険などの保険会社においても支払いを拒否してくることが多い印象です。

しかしながら、後遺障害や治療の内容等によっては認められることがあります。

実際に、将来治療費を認めた裁判例も複数存在しています。

今回ご紹介する事例では、将来治療費として入れ歯の処置費用が認められていますので、皆様のご参考にしていただけますと幸いです。

将来治療費とは

冒頭でお伝えしたとおり、将来治療費とは、症状固定後の治療費をいいます。

症状固定とは、一通りの治療がされたにもかかわらず、これ以上よくならないような状態(症状が固定してしまい、治療効果が得られない状態)に達したときのことをいいます。

実際には、これ以上よくならないかどうか、少しの期間経過観察をしてから、症状固定と判断される場合もあるという印象です。

症状固定後の治療費である将来治療費は、一般的には、事故などと相当因果関係のある損害であるとは考えられていません。

実務上、事故と相当因果関係のある治療関係費は、基本的に症状固定前の治療関係費のみであるとの考え方が一般的であるためです。

しかしながら、後遺障害や治療の内容等によっては、将来治療費も事故と相当因果関係のある損害として肯定されることがあります。

特に、重度の後遺障害である場合には、将来治療費は肯定されやすい傾向にあります。

その典型例としては、いわゆる植物状態になったときに生命を維持するため、頭部外傷後の抗てんかん剤・抗けいれん材の投与、栄養摂取のための胃瘻チューブ交換のための入院、医師の定期的な往診等により発生する費用などがあります。

一方で、症状の悪化を防止するための将来治療費や、強い身体的苦痛を軽減するための将来治療費についても、事故と相当因果関係のある損害として肯定されることがあります。

また、将来治療費が損害として認められるためには、治療費の支出としての具体的な必要性・相当性のほか、支出の蓋然性が認められる必要があります。

この点については、医療記録や被害者又は近親者の報告書等により、主張・立証していく必要があります。

事例の紹介~歯の欠損について将来治療費が認められた事例~

重い障害を抱える息子Bさんを介護していたAさんは、C社の在宅介護サービスを利用していました。

ある日、C社の従業員であるⅮさんが、Bさんを入浴させるために風呂場の椅子に座らせていたところ、Ⅾさんが目を離した際に、Bさんが椅子から転落してしまいました。

Dさんは風呂場にマットを敷いていなかったことから、Bさんは顔を床に強く打ち付け、上顎を骨折するとともに、歯を3本喪失してしまいました。

このように、Bさんは、C社の従業員であるDさんの不注意(安全配慮義務違反)により、事故に遭ってしまったのです。

その後、Aさんは、C社から損害賠償金について提示を受けました。

しかしながら、Bさんは歯を3本喪失したにもかかわらず、後遺障害に関する賠償の提示がなされていませんでした。

また、Bさんは、症状固定後に入れ歯を作成するとともに、その後も定期的に入れ歯を再製する必要があったにもかかわらず、入れ歯の作成費用や再製費用についても提示がなされていませんでした。

このような提案に納得できなかったAさんは、弁護士に相談することとして、当事務所の弁護士がご相談をお受けしました。

担当弁護士は、Aさんからご相談を伺った際、少なくとも3本の歯の欠損は歯牙障害の後遺障害等級14級2号に該当すると考えました。

そのため、後遺障害に関する費目について提示がないのは不当であると感じ、後遺障害に関する資料を整えた上で、後遺障害慰謝料の請求もすべきであると提案しました。

その後、Aさんから依頼を受け、C社と損害賠償について交渉することにしました。

示談交渉の経緯~歯牙障害による後遺障害慰謝料・将来治療費を請求~

後遺障害について

交通事故の場合、まずは事故の相手方が加入している自賠責保険会社に対して、後遺障害等級認定の申請をすることが基本となります。

しかしながら、本件は交通事故ではないことから、自賠責保険の後遺障害等級認定手続きを利用することができず、自賠責保険への申請をすることはできません。

そのため、担当医に対して後遺障害診断書の作成を依頼した後は、同診断書を基に、Bさんの3本の歯の欠損の障害は後遺障害等級14級2号に該当するとして、C社に対してその後遺障害慰謝料の請求をすることにしました。

将来治療費について

Bさんは入れ歯処置を受けていますが、これは症状固定後に行われたものであるため、当該処置費用は将来治療費に該当します。

また、その後も定期的に入れ歯を再製する必要がありますが、これらの再製処置費用も将来治療費に該当します。

そのため、一般的には、事故と相当因果関係のある損害とは考えられていない費目になりますが、類似の裁判例を精査した上で、これらの将来治療費についてもC社に対して請求することにしました。

難しい話になりますが、将来治療費を請求するにあたっては、その支出が見込まれる期間の年数に対応する中間利息を控除することに注意が必要です。

これは、将来における支出額を、最初に一括で受け取ることから、症状固定時の現価に割り戻す必要があるためです。

C社に対して将来治療費を請求するにあたっては、平均余命に基づき、Bさんが今後入れ歯を再製する時期を全て想定した上で、それぞれについて中間利息を控除しました。

入れ歯を再製する時期については、担当医に診断してもらいました。

示談による解決

C社との間で後遺障害慰謝料や将来治療費について交渉した結果、C社も将来治療費を認め、さらに慰謝料の増額なども受け入れたため、最終的にC社から約360万円(うち将来治療費は約120万円)の提示がなされるに至りました。

当初の提示額は約50万円(うち将来治療費は0円)であったことから、弁護士が介入したことにより、約310万円もの増額が実現したことになります。

Aさんとしても納得できる金額であったことから、この内容で示談解決するに至りました。

まとめ

このように、将来治療費は、一般的に、事故と相当因果関係のある損害であるとは考えられていませんが、後遺障害の内容や治療の内容によっては、事故と相当因果関係のある損害として認められることがあります。

ご紹介した事例の入れ歯処置費用の他にも、例えば、インプラント治療費やブロック注射の費用が、将来治療費として認められることもあります。

もっとも、保険会社は、将来治療費の支払については非常に消極的ですので、被害者様ご本人で交渉することは困難であると思います。

そのため、将来治療費についての請求を考えられている場合は、交通事故や労災事故などの損害賠償の経験が豊富な弁護士にご相談することをお勧めいたします。

私たちの優誠法律事務所では、交通事故や労災事故のご相談などは無料でお受けしておりますが、今回ご紹介した介護サービスでの事故などにつきましても、無料相談でご対応しております。

無料相談の可否につきましても、お気軽にご相談ください。

☎0120-570-670

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」