不当解雇を労働審判で争い高額の解決金を得た事例

2024年3月28日

皆さんこんにちは。

今回は不当解雇の事例についてご紹介します。

今の日本では、会社が従業員を適法に解雇することは容易ではありません。

労働法上、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には権利濫用として無効となるとされ、つまり、解雇を正当化する十分な理由のない解雇は無効とされるからです。

本記事では、労働者側が不当解雇を主張し、交渉段階では一切解決金を支払おうとしなかった会社に、労働審判手続きにおいて300万円を超える解決金を支払わせた事例を紹介しつつ、解雇を争う際のポイントを解説します。

「解雇を正当化する十分な理由」の有無を判断するのは難しいですが、本記事が一助となれば幸いです。

ご相談内容~不当解雇~

私たちは、A氏から、解雇されてしまったがこの解雇はおかしいと思うので会社と争いたいと相談を受けました。

会社は、解雇の理由として、社宅でのトラブルや休憩時間を勝手に長めに取ったことなどを挙げているという話でした。

お話をお聞きした限り、解雇される程の重大な事由ではなさそうに思えたため、解雇が無効になる可能性があるとA氏に伝え、会社との交渉をご依頼いただきました。

交渉~多数の解雇理由を主張されて交渉決裂~

相談時、A氏は資料を持参していなかったのですが、後日、解雇通知書をもらって読んでみると、解雇理由が10個程列挙されていました。

相談時に聞いていた事情に加え、無連絡での遅刻や無許可での車通勤などについての詳細が書き連ねられていました。

また、社宅でのトラブルというのも、共用通路・駐車場の使用や騒音を巡るトラブルなど、複数の事情が解雇理由として挙げられていました。

解雇が適法なものであるためには、まずは就業規則に定められた解雇理由が存在することが大前提となりますが、この点については、一般的に、就業規則において包括的な解雇理由が定められていることから、クリアすることが多いようです。

本件の解雇理由は、一つ一つを見ればどれも解雇理由になる程の事由ではなさそうに思えましたが、これだけ多くの事情があったとなると、全てを総合していわゆる「合わせ技」として解雇理由に該当するという主張があり得るとも考えられます。

この疑問に対する明確な回答がある訳ではないのですが、労働者側としては、解雇が、会社が一方的に雇用契約を解消するものであって、労働者に大きな不利益を与え得るものであることからすると、一つ一つの事由が解雇を正当化する理由とならないのであれば、「合わせ技」によって解雇を正当化することは許されないと主張したいところですし、それは実務において十分通用する主張であると考えます。

A氏からすると、解雇通知書において、でっち上げられた記載や、A氏の言い分を聞かずに一方的に決めつけた記載が多く、一部事実もあるものの注意されて改善したとのことで、いずれの点についてもA氏としての言い分があるということでした。

また、入社当初から、A氏と会社が福利厚生を巡って対立してきたことや(最終的にA氏の主張が認められています。)、解雇のタイミングが、A氏が育児休業の申請をした直後であったことなどから、会社が権利主張の強いA氏を煙たく思い、A氏を排除する目的で解雇した可能性もあると考えられました。

A氏の育児休業申請を会社はなかなか受理せず、その理由が社宅退去後の精算がまだ済んでいないといった不合理なものであったり、A氏が上司から育児休業についての話合いとして呼び出された場で突然解雇を言い渡されたといった、不自然な経緯がありました。

会社に送る通知書において、解雇理由とされているものの中には事実と異なる内容や、A氏の言い分を聞くことなく一方的に決めつけている内容があること、いずれも仮に事実だとしても解雇理由とはなり得ないこと、解雇に至る経緯に不自然な点があり、A氏を排除する目的での解雇が疑われることを指摘し、解雇は違法無効であると主張しました。

しかし、会社からは、A氏の解雇に不当な点は一切なく、職場復帰を認める理由も、金銭を支払うつもりも全くない旨の返事がきました。

労働審判~高額の解決金で和解成立~

交渉による解決が見込まれなかったため、やむなく労働審判を申し立てることになりました。

労働審判は、労働者と会社とのトラブルを、実情に即して迅速に解決するための手続きであり、非公開で行われます。

労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織される労働審判委員会により手続きが進められます。

原則として3回以内の期日で審理を終えることになっています。

労働審判委員会は、まずは話合いによる解決を試みます。

話合いによる解決ができなければ、委員会としての判断が審判という形で示されます。

審判に対しては双方の当事者が異議を申し立てることができ、異議申立てがされると自動的に訴訟手続きに移行します。

本件の労働審判手続きにおいて、会社側の立証活動により、A氏の主張に虚偽があったことが判明しました。

しかし、会社の挙げる解雇理由の一つ一つがそこまで重大な事由とはいえないことと、やはり解雇に至る経緯に不自然なところがあるのは否定できないことなどから、労働審判委員会が会社側に解決金の支払いを促してくれました。

もっとも、委員会からA氏に対して、これだけの解雇理由が列挙され、ある程度は事実であると認定できることから、審判となればA氏にとって厳しい内容になることも十分考えられることや、仮にA氏に有利な審判が出るとしても、訴訟に移行すれば、判決では負けてしまう可能性もかなりあるといった話をされ、そこそこの金額で手を打つことを勧められました。

それでも、会社は当初100万円程度の解決金しか支払えないと言っていましたが、委員会からの勧めに容易に従わず会社側の不当な点を主張し解決金の増額を求め続けた結果、最終的には300万円を超える解決金で和解することができました。

まとめ

本件においては、以上のように解決金の額を増額することができましたが、事案の内容からすると、ここまでの増額に至らないという事態も十分考えられました。

前述したとおり、「合わせ技」によっては解雇は正当化されないという主張が通用するとしても、裁判官の様子からすると、各解雇理由に共通する要素を一つの解雇理由とすることはあり得るのだろうと推測されました。

本件では、会社側の、訴訟にしたくないという意向が強かったことが増額につながったものと思われます。

会社が訴訟も辞さないという姿勢だったなら、労働審判では終わらずに訴訟に移行し、敗訴していたかもしれません。

そして、会社がなぜ訴訟にしたくなかったのかというと、会社側が敗ける可能性があったことももちろんですが、会社が一刻も早くA氏との関係を断ち切りたかったからと見受けられました。

このように、労働審判手続きにおいては、主張立証をしっかりしていくことは当然必要ですが、様々な事情も踏まえての駆け引きも重要になってきます。

この駆け引きは難しいものではありますが、弁護士が、依頼者にしっかりと事実確認をした上で、経験と専門的知識を生かして戦略を立てていくことが肝になります。

優誠法律事務所では、解雇に関するご相談を初回無料で承ります。

まずは是非一度ご相談ください。

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投稿者プロフィール

 髙玉亜紀 弁護士

約10年間の専業主婦時代を経て弁護士になり、これまで、離婚や労働を始めとする民事事件、そして、刑事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、併せて法的なポイントを分かり易くお伝えしていきます。
■経歴
2000年3月 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業
2013年3月 早稲田大学大学院法務研究科修了
2015年12月 最高裁判所司法研修所(東京地方裁判所所属) 修了 
2016年1月 ベリーベスト法律事務所入所
2023年2月 優誠法律事務所参画
2024年1月 企業内弁護士に転身
■獲得した判決
東京地裁判決令和2年6月10日判決(アクサ生命保険事件)(労働判例1230号71頁)