残業代の獲得に成功した事例その3~夜勤の従業員の夜間の休憩時間が労働時間に該当するか争った事案~
皆様、こんにちは。
優誠法律事務所です。
今回のテーマは残業代です。
今回は、グループホームの施設で夜勤勤務していた従業員が、施設の運営会社に対して残業代を請求した事例をご紹介します。
今回の依頼者Wさんは夜勤(泊まり込み)でしたが、勤務先の給与計算では午後9時から翌午前6時までは休憩時間とされており、この時間帯の残業代が支払われていませんでした。
そのため、この夜間の時間帯が労働時間に該当するか否かが今回の争点となりました。
以前の記事でトラック運転手の待機時間が休憩時間に該当するか否かが争われた事例をご紹介しましたが(残業代の獲得に成功した事例その1~ドライバーの待機時間は労働時間に含まれるかを争った事案~)、残業代請求の事案では、実態としては就業先に拘束されている状況にもかかわらず、休憩時間として扱われて労働時間としてカウントされていない事例は意外と多いように思います。
同様のことでお困りの方は、参考にしていただけますと幸いです。
今回の事案の内容~泊まり込みの夜勤勤務の残業代~
今回の依頼者Wさんは、グループホームの運営などをしている会社に入社し、入社直後から担当の施設で夜勤の仕事をしてきました。
Wさんは、入社以来、週休1~2日で勤務日は毎回午後4時に出勤し、翌朝9時に退勤する勤務形態で仕事をしてきましたが、在職中に残業代が支払われたことはありませんでした。
Wさんは、この会社で2年半ほど勤務して退職しましたが、勤務日の拘束時間は午後4時から翌9時の17時間にも及んでいるにもかかわらず、残業代が全く払われないことに不満を持っていました。
そこで、退職後に私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。
私たちがWさんに勤務先での業務内容や業務中の実態についてお聞きしたところ、基本的に夜間は施設入居者が就寝しているため、何も起きなければ入居者の就寝後から起床前までの時間は施設内の自室に待機していたということでした。
しかし、何か問題が発生すると、その対応をする必要があり、夜間も自由に過ごせる訳ではないとのことでした。
そのため、Wさんとしては、夜間の時間帯も労働時間として残業代を請求して欲しいというご希望でしたので、私たちは、まずは拘束時間を全て労働時間として残業代(深夜手当を含む)を計算して、勤務先に請求することにしました。
待機時間は休憩時間か労働時間か
元勤務先の主張~午後9時から午前6時は休憩時間~
上でご説明したとおり、Wさんの元勤務先会社に対して未払残業代を請求したところ、元勤務先からは、午後9時から午前6時は休憩時間であるとの主張で、Wさんには残業代は発生していないとの返答がありました。
その一方で、私たちが残業代請求と併せてタイムカードや賃金台帳の開示を求めたところ、すぐに応じて開示してくれましたが、賃金台帳には毎月100時間以上の深夜労働時間が記載されていました。
元勤務先の主張を前提とすると、深夜時間帯(午後10時から午前5時)は全て休憩時間になりますので、この賃金台帳の深夜労働時間の記載は矛盾していました。
なお、Wさんが深夜労働していたということであれば、深夜手当の支給が必要ですが、深夜手当も支払われていませんでした。
また、元勤務先に対して、午後9時から午前6時を休憩時間として取り扱っていることに対して、雇用契約書や就業規則などで記載があるのか確認したところ、そのような記載は何もないとのことでした。
休憩時間とは?
労働法上の休憩時間は、労働者が権利として労働から離れることが保障されていなければならないとされています。
そのため、待機時間等のいわゆる手待時間は休憩に含まれません。
労働から離れることが保障されている必要がありますので、例えば昼休み中に電話や来客対応をしなければならない状態であった場合、この昼休みとされている時間も労働時間に含まれることになります。
Wさんの場合、元勤務先が休憩時間と主張していた午後9時から午前6時の時間帯も、完全に自由に過ごせた訳ではなく、就労場所に拘束されており、深夜でも対応が必要なことが発生すれば対応していました。
このような実態を考えると、休憩時間とは評価できないと考えられました。
また、入社時の募集要項や雇用条件通知書でも、休憩時間の定めについては記載がなく、Wさんは退職して初めて休憩時間として扱われていたことを知った状態でした。
そのため、Wさんとしては、元勤務先の休憩時間の主張は全く受け入れられるものではなく、未払残業代を支払うよう交渉を続けました。
労働審判で和解
私たちは、Wさんの元勤務先と残業代の交渉を続けましたが、結局、双方の主張の隔たりが大きく、交渉では全く進展がありませんでした。
そのため、Wさんは裁判所での解決を目指して、労働審判を申し立てました。
元勤務先は、労働審判でも、午後9時から午前6時が休憩時間に当たり、残業代も深夜手当も発生しないとの主張を繰り返したため、この点が最大の争点となりました。
労働審判は、基本的に3期日までで審議が終わり、早期解決が見込まれる手続きですが、今回の争点は夜間の時間帯の取り扱いが休憩時間か労働時間かという点のみでしたので、労働審判委員会が双方の言い分を確認した上で初回から和解を促され、金額面の交渉になりました。
労働審判委員会としては、Wさんの勤務の実態を考えると、午後9時から午前6時の時間帯の全てが休憩時間とは評価できないとの心証を示したものの、実際に入居者のトラブルなどで深夜時間帯に対応が必要になるケースは少なかったことなどから、常に待機状態であったともいえないとの判断で、全てを労働時間として算入することはできないとの心証を示して、双方に和解を促しました。
その後の和解協議の結果、Wさんが請求した残業代の4割程度に当たる300万円で双方が合意し、和解が成立しました。
まとめ
今回は、夜勤の労働者について、夜間の時間帯が休憩時間に該当するか否かが争われた事案を紹介しました。
今回のように、勤務先で休憩時間と扱われていても、労働から解放されていないような実態の場合には、労働時間として残業代を請求できる場合もあります。
同じような状況の方は、一度専門家にご相談になることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、残業代のご相談は無料でお受けしておりますので、せひご相談ください。

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投稿者プロフィール

これまで、離婚・相続・労働・交通事故などの民事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、皆様がお困りになることが多い法律問題について、少しでも分かりやすくお伝えしていきます。
■経歴
2009年03月 法政大学法学部法律学科 卒業
2011年03月 中央大学法科大学院 修了
2011年09月 司法試験合格
2012年12月 最高裁判所司法研修所(千葉地方裁判所所属) 修了
2012年12月 ベリーベスト法律事務所 入所
2020年06月 独立して都内に事務所を開設
2021年03月31日 優誠法律事務所を開設
2025年04月 他事務所への出向を経て優誠法律事務所に復帰
■著書
こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)