不貞行為の慰謝料請求は離婚後でもできる?不倫相手に請求した実例を法律事務所が解説
皆様、こんにちは!
優誠法律事務所です。
今回のテーマは「不貞慰謝料」です。
婚姻中の不貞行為は夫婦関係を大きく揺るがし、離婚や慰謝料請求の大きな原因になります。
例えば、夫の不倫が発覚した場合、多くのケースではその時点で夫や不貞相手の女性に慰謝料請求をします。
夫と離婚する場合には、離婚の条件と一緒に不貞慰謝料についても協議することが通常です。
ただ、不貞慰謝料は、離婚時に請求しなければならないという訳ではなく、消滅時効が成立する前であれば、離婚後に請求することも可能です。
本記事では、当事務所が実際に取り扱った、離婚の際に不貞慰謝料を請求しなかった妻が、離婚と同じ年に元夫と不貞相手が再婚したことで怒りが再燃し、元夫夫妻に不貞慰謝料を請求した事例を紹介しつつ、不貞慰謝料請求の基本を解説します。
不貞行為の慰謝料相場と算定要素
不貞行為の慰謝料の算定で考慮される要素
不貞慰謝料を算定する上では、一般的に以下のような点が考慮されます。
- 婚姻期間の長さ
- 子どもの有無
- 不貞の期間・回数
- 結婚生活への影響(別居・離婚の有無)
- 不貞の主導性(誘った側かどうか)
- 相手方の社会的地位や経済力
婚姻期間が長い場合や子どもがいる場合は、家庭の崩壊についての精神的苦痛が大きくなるとされて慰謝料が高くなる傾向があります。
一方で、不貞の期間が短い場合や不貞行為の回数が少ない場合には慰謝料が低く算定されることがあります。
不貞慰謝料の相場
裁判例や実務上の感覚としては、以下の金額が不貞慰謝料の相場と考えられます。
ただし、個別の事情によって判断されますので、事案によって相場より大きく上下することもあります。
実際の支払い方法としては、一括払いのほか、分割払いが認められるケースもあります。相場を参考にしつつ、交渉で支払い条件を定めることが一般的です。
①不貞行為後も離婚しない場合:50〜100万円程度
②不貞行為が原因で離婚に至った場合:100〜300万円程度
W不倫の特殊事情
W不倫(ダブル不倫)の場合、双方が既婚者のため、それぞれの配偶者が不貞相手に慰謝料を請求することが考えられます。
例えば、A・B夫妻とC・D夫妻がいて、BとCが不貞行為をした場合は、AとDがそれぞれの配偶者への慰謝料請求に加え、AからCへの慰謝料請求、DからBへの慰謝料請求が考えられます。
このケースで双方の夫婦が離婚しない場合、それぞれの夫妻の家計は一つと考えると、AがCから慰謝料を受け取っても、BがDから慰謝料を取られると、結局金銭が回るだけで、不貞相手への請求は経済的にはあまり意味がないということになります。
そのため、W不倫の場合、不貞相手に慰謝料を請求するかどうかについては、この点も踏まえて検討が必要です。
不貞行為の慰謝料請求の流れと必要な証拠
不貞行為に基づく慰謝料請求を行う際には、一般的に次のような流れになります。
① 不貞の事実確認
② 証拠の収集(LINE履歴、メール、写真、ホテルの領収書など)
③ 内容証明郵便で通知書(請求書面)を送付
④ 相手方との示談交渉
⑤ 合意に至らない場合は裁判を提起
特に重要なのは証拠の確保です。裁判所で不貞行為が認められる(基本的には肉体関係を伴うかどうか)には、写真や宿泊記録、やり取りの履歴といった客観的証拠が有力になります。
証拠集めの具体的方法や注意点は、本サイト内記事『不倫の証拠集めで注意すべきポイントを解説!』や『不貞慰謝料減額交渉のポイント|弁護士が解説する減額の方法と成功事例』でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
離婚後に不貞慰謝料を請求する際の注意点
冒頭でご説明したように、離婚時に不貞慰謝料を請求しなかった場合でも、離婚後に慰謝料を請求することは可能です。
ただ、いくつかの注意点があります。
離婚時に慰謝料相当額を受け取っている場合
離婚の際に、配偶者から金銭(財産)を受け取っている場合には注意が必要です。
財産分与として共有財産の一部を受け取っている場合には、それ自体は不貞慰謝料請求には影響しませんが、不貞行為のことも考慮した上で多くの財産分与を受けていた場合などは、既に不貞慰謝料も清算済みと反論される可能性があります。
また、離婚協議書を作成している場合に、いわゆる「清算条項」(協議書に記載のもの以外に債権債務なしと定める条項)が入っていると、基本的にその後に元配偶者に不貞慰謝料を請求することは難しいと考えられます。
消滅時効
不貞慰謝料の消滅時効は、不貞行為の事実と相手方を知ったときから3年間で成立します(不倫が原因で離婚に至った場合の配偶者に対する離婚慰謝料の消滅時効は、離婚から3年間で成立します。)。
そのため、離婚後しばらくしてから不貞慰謝料を請求する場合には、時効について注意する必要があります。
自分の権利を守るためにも、これらの時効には注意してください。
不貞相手に請求する場合
不貞相手に対しては、元配偶者との離婚の合意内容にかかわらず、離婚後に不貞慰謝料を請求することは可能です。
ただ、不貞行為は配偶者と不貞相手の共同不法行為とされ、配偶者から十分な慰謝料を受け取っている場合には、不貞相手への慰謝料が認められない場合があります。
例えば、妥当な不貞慰謝料が200万円のケースで、元配偶者から離婚の際に不貞慰謝料として200万円を受け取った場合、その後に不貞相手に追加で慰謝料を請求することはできません。
もちろん、妥当な慰謝料がいくらかということは簡単に判断できませんが、不貞相手に不貞慰謝料を請求した際に、不貞相手からの反論として、「既に元配偶者が十分な慰謝料を支払済だから請求には応じない」と主張されることが考えられます。
裁判所の判断基準
裁判所では、肉体関係の有無が不貞行為として認められるかどうかの重要な判断基準となります。
また、不貞慰謝料を請求された方から、不貞の際には既に夫婦関係が破綻していた、あるいは別居していたと主張されるケースもあり、それが事実であれば慰謝料の発生が否定されることになります。
そのため、裁判ではこのような反論をされることも多く、それらが事実かどうかも証拠に基づいて審理されます。
不貞相手に対する慰謝料請求の判断基準や注意点については、『不貞相手と不貞配偶者それぞれから順次不貞慰謝料を獲得した事例』の記事も参考になります。
今回のご相談内容~W不倫で離婚後、不倫カップルが再婚~
今回の依頼者A子さんは、いくつかのきっかけで夫であるB男さんの浮気を疑うようになっていました。
そうしたところ、B男さんが出張だと言って出かけていた期間に休暇を取っていたことが分かり、その期間中に不倫相手のC美さんと沖縄旅行に出かけていたことが発覚しました。
その後、A子さんとB男さんは、この不倫がきっかけで離婚に至りましたが、離婚の際には、不貞慰謝料の取り決めはしませんでした。
A子さんがこのときに慰謝料を請求しなかったのは、精神的に疲れてしまっていたことと、いわゆるW不倫でC美さんも既婚者であったため、C美さんのご家庭も巻き込むことになって面倒だと考えたという事情もありました。
しかし、A子さんは、離婚後しばらくして、当時既婚者だったC美さんも同時期に離婚して、B男さんと再婚したことを知って怒りが再燃し、やっぱりB男さんとC美さんに対して不貞慰謝料を請求したいとのことで相談に来られました。
なお、不貞慰謝料請求を始める際には、通常、内容証明郵便で相手方に通知します。
これにより、後の裁判でも請求の意思表示が明確に残り、これが「催告」となって半年間は時効完成が猶予される効果もあります(ただし、正式に時効を更新させるためには、催告から半年以内に裁判を提起するなどの必要があります)。
交渉~不貞行為を否定され、交渉決裂~
A子さんからご依頼を受けた後、担当弁護士は、B男さんC美さん夫妻に対して、内容証明の通知書を送り、不貞慰謝料の支払いを求めました。
しかし、B男さんとC美さんは、代理人弁護士を通じて、2人が交際を始めたのは双方の離婚後であって、A子さんとB男さんの婚姻期間中は、食事に出かけることなどはあったものの、不貞行為はしていないと主張して慰謝料の請求に応じないと回答してきました。
A子さんは、離婚の際には不貞慰謝料を請求しなかったものの、B男さんとC美さんのLINEでのやり取りや一緒に入浴している写真など、不貞を裏付ける十分な証拠を確保していましたので、B男さん夫妻が不貞行為を全面否定してきたことは想定外でした。
そこで、担当弁護士から相手方代理人に対して、A子さんが十分な証拠を確保していることや、そもそも出張だと嘘をついて一緒に沖縄旅行に行ったことでW不倫が発覚しており、不貞行為を否定するのは無理な主張ではないかと伝えました。
しかし、それでもB男さん夫妻は、頑なに不貞行為を否定して慰謝料の請求に応じませんでした。
このようなB男さん夫妻の態度に、ますますA子さんの怒りが大きくなり、B男さんとC美さんに対して裁判を起こすことになりました。
裁判~不貞慰謝料200万円で和解成立~
不貞行為の立証
B男さんとC美さんが、交渉段階で頑なに不貞行為を否定していたため、裁判でも同様の主張をしてくることが予想されました。
そのため、担当弁護士は、提訴の段階で訴状と一緒にA子さんが確保していた証拠をほぼ全て提出して不貞行為の立証に努めました。
訴訟戦略上、最初に全ての証拠を出さないということもあり得ますが、今回は以下の証拠が揃っており、これほど完璧な証拠を確保できている事例は珍しいと言えるほどでしたので、不貞行為の立証については全く心配していませんでした。
①LINEの履歴
・「付き合って3カ月」などと交際を裏付ける記載
・発覚していた沖縄旅行に関する記載
・他のホテルでも会っていることが分かる記載
・双方が配偶者と別れて再婚することを目指していると読み取れる記載
②写真
・二人ともバスローブ姿でベッドの上で撮影されている写真(複数。少なくとも5か所のホテル)
・露天風呂に二人で入浴している写真
・二人での旅行中に撮影されたと思われる写真
相手方の反論
しかし、これだけの証拠を出されても、B男さん夫妻は不貞行為を否定し続け、裁判では、
B男さんとC美さんが交際を始めた時点では、既にAさんとB男さんの婚姻関係は破綻しており、不貞行為には当たらないとの反論もありました。
一般的に不貞慰謝料請求に対する反論としては、
①性行為(肉体関係)はなかったと否認する
②既に夫婦の婚姻関係が破綻していたと主張する(婚姻関係破綻の抗弁)
③請求額が高過ぎると慰謝料額を争う
④消滅時効が成立していると主張する(時効援用の抗弁)
などが考えられますが、今回も相手方は①と②を主張してきたことになります。
再反論
まず、A子さんとB男さんは、W不倫発覚当時、まだ結婚2年目で別居など婚姻関係破綻を推認できるような客観的事情はありませんでした。
また、W不倫発覚直前まで夫婦間の性交渉もありましたので、A子さんとしては、なぜこのような主張をしてきたのか理解できませんでした。
そして、B男さんとC美さんが交際を始めたのは離婚後だったという裁判前の主張とも矛盾していました。
そのため、担当弁護士は、婚姻関係破綻を否定する内容の再反論をするとともに、これを裏付ける証拠も提出しました。
裁判所和解案で和解成立
裁判所は、双方の主張立証を検討した結果、不貞行為を認定できるとの心証(裁判官の判断)を開示して、不貞慰謝料を200万円とする和解案を提示しました。
裁判官は、和解案の理由として、A子さんとB男さんの婚姻期間が短かったことや子供がいないなどの事情はあるものの、B男さんとC美さんがそれぞれ離婚して再婚することを意図して交際していたことなどから悪質性が高いとの指摘をしました。
200万円という金額については、不貞慰謝料としては相場程度の内容であり、A子さんもそのくらいの金額を目途に考えていたため、和解に応じることとしました。
B男さんとC美さんも、裁判所の心証を聞いて諦めたようで、この裁判所和解案に応じ、和解が成立しました。
まとめ
今回は、離婚後しばらくしてから、元夫と不貞相手に不貞慰謝料を請求した事案をご紹介しました。
上でご説明したように、不貞慰謝料は離婚後に請求することもできますが、離婚時の合意内容などによっては、請求が認められない場合も考えられますのでご注意ください。
今回ご紹介した事案のように、不貞慰謝料の請求は、証拠があってもなかなかうまくいかないことも多く、当事者同士では感情的になって交渉が進まないことも考えられますので、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
今回の記事で取り上げたように、不貞慰謝料請求には多くの注意点があります。
ご自身のケースで請求が可能かどうか判断に迷う場合は、弁護士に一度ご相談ください。
当事務所では、不貞行為・離婚に関する初回相談を1時間無料相談で受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
また、同居中に離婚や慰謝料協議を成立させたケースについては『同居したまま離婚・不貞慰謝料の協議を成立させることができた事例』でも紹介していますので、あわせて参考にしていただけますと幸いです。

投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年民事事件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)








